このページはPI-Forumとして活動していた頃のウェブサイトをアーカイブしたものです。

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インタビュー企画「PI-Forumの理事に聞く!」
第1回:石川雄章氏(前・理事長)

1961年生まれ。
東京大学工学部土木工学科修士課程修了後、建設省入省。 四国地方建設局で現場の地元調整や四国地域の道路計画の立案などに従事。建設本省で道路審議会の事務局や道路予算のとりまとめ等を担当。2000年に英国道路庁で欧州の道路計画制度、PIを研究。2001年から高知県理事(情報化戦略推進担当)。

石川雄章

■パブリックインボルブメントとの出会い

――そもそも、パブリックインボルブメントという言葉を知ったのはいつですか?
1996年ごろに道路審議会の事務局をやっていたとき。道路行政に対する意見を皆様から伺うという試みが、多分日本で初めてのパブリックインボルブメントだったと思う。「パブリックインボルブメント方式で政策を作ります」というメッセージとともに、国民の皆様にアンケートに答えて頂きながら政策を作っていった。

――その頃、日本以外ではすでにパブリックインボルブメントが取り入れられていたのですか?
イギリスでいうとホワイトペーパーを作るとき、アメリカがISTEA 、TEA−21 。政策立案過程のパブリックインボルブメントは、他でも行われていた。

――パブリックインボルブメントという言葉自体はなかったかもしれませんが、道路審議会でのご経験の前にもずっと現場でパブリックインボルブメント的なことに携わってこられたと思いますが。
実務上、住民とのコミュニケーションや意見を伺うということは、愛媛県の高速道路の計画を担当したときに経験した。29歳で松山に行ったが、この頃はパブリックインボルブメントという概念は無かった。反対署名が多数あって、国会でも取り上げられたし、すごく大変だった。洗練された方法論など無かったので、毎晩のように地元に行って説明して、反対派の首長さんやリーダーの方とも直談判をした。都市計画決定前の一番もめている時に担当課長として、そういうのを1年3ヶ月間やった。

――どんな信念を持って取り組まれていたのですか?
地域の発展のためには絶対に必要だと思って取り組んでいた。全国の高規格幹線道路網というのが閣議決定していて、今治市と小松町を結びましょうというのは決まっていたけれども、地域のどこを通すかについては都市計画決定をしないと決まらない。多くの人が高速道路は欲しいと思っているけれど、自分のところには通したくない。説明会で罵声がとぶとか、なかなか会場に入れないとかというのもあった。

――根本的な問題は何だとお考えですか?
 問題は簡単ではない。政治的な話もある。そのときの町長選や市長選の影響であったり、その地域での何十年もの経緯があったりするから、一言ではいえない。問題の所在や意思決定の仕方が地域で違っていて、それを前提としてどういう形で意思決定をするべきかをその場その場で考えていかないといけない。
決めるための約束事が大切。最終的には、責任者や主体者が決めればいいと思う。部外者は協力者でしかない。本来、地方の自主性と責任を尊重すべきで、「俺達はこういうルールでやっているんだ」と言われればそれに従うのが筋かもしれない。部外者が「こういう他の方法もありますよ」と言っても、そこに住む人たちがそれいいねと認めてくれて、それを使いましょうということにならない限り使われない。外から見て、建てかえたほうがいいと思う家でも、そこに住んでいる人が、「いやいやこれはね、おじいちゃんの代からの歴史があるんだから、ここがいいのよ」と言われれば、その気持ちは大切にするべきだよね。けれどその一方で、個人の意見や気持ちだけを通していては公共の利益は実現できない。だからこそ、互いの意見を集約してよりよい社会を実現していくための考え方や方法が大切。

■社会に必要な3つのPI

――石川さんの考えるPIって何ですか?
PI-Forumが提唱している3つのPI:Public Involvement(パブリックインボルブメント), Public Initiative(パブリックイニシアティブ), Partnership Incubation(パートナーシップインキュベーション)。まず、一つ目は、行政が市民に働きかけることで市民参加を促すというパブリックインボルブメント。一方、行政がいくら制度を作ってもそれだけではダメ、で、二つ目は、市民の側も自らの責任において参画して、自分の意見を述べる、発議するというパブリックイニシアティブが必要。そして最後に、こういった活動を通じて市民や行政など地域が一緒になって考えていく環境を生み出していくというパートナーシップインキュベーション。そういう社会を実現したいという思いが、PI-Forumの三つのPIに込められている。

――そういう社会にしたいというのをもう少し詳しく教えて下さい。
簡単に言うと子供達のことを考えている。僕は、自分の子供達がやりたいと思うことを自然にできるできる国にしたい。自分が何かをやりたいと思えば、アメリカとか海外に行くのではなくて、国内でもいろいろなチャレンジングなことができる国になって欲しいと思うし、そこに住んでいることが誇りに思える国にしたい。そのためには、いろいろな意見をうまく紡いで新しい価値を創造するような仕組み、これまで培ってきた文化を育てていく仕組みが必要。PIはそのような環境をつくる基本ではないかと感じている。

■パブリックインボルブメントは行政が意思決定するための一つの機能

――パブリックインボルブメントの必要性をどのように説明されますか?
ある行政的な行為については誰かが決めなけばいけないけれども、全員参加で市民が決められるわけではない。最後は誰かが何らかの手続に基づいて決めなければならない。そこに、パブリックインボルブメントの必要性があると思う。例えば、市長、知事、国なら大臣に決定権が付託されており、それは法令でも定められている。法令は皆で決めたルールだし、首長、市長、知事を選ぶときには、そういう権限を渡すことを前提として選挙をしているはず。だから、我々はその人が決めることについては聞き入れなくてはいけない。その一方で、彼らにはリーダーとして将来を見通した上で正しい判断をする責任がある。自分勝手な思い込みで決めてもらっては困るし、そのために税金を払って行政機構を通じて情報を得ているのだから。少なくとも、正しい判断をするためには、いろいろな意見をできるだけ幅広く聞く必要はあるだろう。
かつては、町内会長さんがコミュニティの中でいろいろな情報をもらうことで、地域の情報を集め、それを伝達する役割を果たしていた。その人に聞けば、だいたい地域で何が起こっていて、何が課題かということは分かった。しかし、最近は、都市部に人がどんどん出ていってしまって、昔からのコミュニティが希薄になっている。情報を集めたつもりでも、気がついていない情報があるかもしれない。しかし、正しい判断をするためには、出来るだけ多くの正確な情報を得ないといけない。パブリックインボルブメントには、それを補完する意味があるのではないかと思う。そういう意味では、新しいコミュニティである都市部においては特に、パブリックインボルブメントは、行政が意思決定をするために必要な機能の一つだといえる。

■大切なのは地元への愛着や参加意識、地域の将来を自らが担うという覚悟

もともと行政的な意味合いが強かったのかもしれないけれど、パブリックインボルブメントという行為には、もっと多面的な意味が含まれていると感じている。例えば、議論を通じて、地域のコミュニティの良いところ、悪いところが見えてくるとか。自然環境の大切さやこんなところにあんな人がいるということを議論することによって、自分達が地域の資源や将来に関心や責任を持つようになるとか。今は道路をここに建設すべきかどうかの議論をしているけれど、道路が出来たら後はそれをどうやって管理するのかとか、道路を使ってどうやって地域を活性化していこうかという議論にもつながっていく。
長い目でみると、意思決定のための情報だけではなくて、地元への愛着だとか、市民の参加意識だとか、そちらの方が重要だと思う。だから、行政が主役ではなく市民が主役になるべき。行政の役割は、本来与えられたミッションをこなすこと。地域づくりのところまで本来行政がやるべきなのか、ということも考えなければならないのではないだろうか。チョット理屈っぽくなるが、だからこそ、パブリックインボルブメントだけではなくて、地域の市民が、自らの意思で参画するパブリックイニシアティブという考え方がとても大切だと思う。行政に頼りすぎるのはいけないと思う。江戸時代とかは"道普請"といって地域の人たちが皆で道路を作っていたんだから。小さな政府というからには、今行政が行っていることの多くを、そこに住む人が自ら担っていかなければならないと思う。

――最近はコミュニティやコミュニケーションそのものが希薄になっていると言われますが。
 もともと日本では、すごくコミュニティが発達していて、根回しとかでお互いの意見を聞いて、話しを進めていた。どこで変わったかというと、高度成長期に地域の担い手の多くが東京をはじめとする大都市に出て行ってしまって、地域を支える母体がいなくなってしまった。本当に中核になる若手が地方には残っていないように思う。だからこそ、その時代にあったコミュニティやコミュニケーションのあり方が必要になっているのだと思う。

――必要なのはルールや制度でしょうか?
もともとコミュニケーションだって、地域の意思決定だって、紙になんか書いていない。例えば、水利組合の人で水の流れのことが分かっていて、その人がこれこれでよいかというと、みんながその人のことを信頼して、私利私欲ではない皆ためを考えてやろうというふうにまとまった。変なルールを作くらなくてもそれが出来ていた。倫理や信頼が下がるほど法律やルールに書かなくてはいけない。暗黙の信頼というのは、突然出来るものではなく、すごく長い歴史に培われているところでしかできない。例えば米国は国が新しいから、契約として明文化しないと約束事として成立しない。米国の悪口をいうわけではないけど、契約主義をまねて日本の文化の良さが失われている面が多いように思う。法律に書いていないことはやってもいいんだと教えるから、倫理観が低下しているように思う。文化が異なる国際関係での決め事と地域文化の中での決め事は自ずと違う。
米国の場合は、ルールを決めるまではごちゃごちゃいうが、決まったらしょうがないと割り切る。日本の場合は、文化的背景が違うのにルールをつまみ食いしているので、決まった後もごねる。ある制度というのは、制度が独立してあるのではなくて、その制度の根底にある文化とかが関わっている。国を一つの文化としてみることにも若干疑問はあるけれど、日本の制度というものを考えるときは、根底にある文化を考えないといけないし、明文化していないけれども、日本が長い歴史の中で培ってきた倫理観とかは、やはり素晴らしいものだと思っている。

■PI-Forumへの思い

――ただでさえお忙しい官僚というお仕事であるにも関わらず、PI-Forumをつくる決断をされたのはどうしてでしょうか?
40歳になったからかな。私は行政マンなので行政の立場からできることはある。だけど、行政のシステムでは無理なこともある。私も一市民なのでその立場で市民参画をしようと思ったときにどうすればよいのか分からなかった。だから、自分でやってみようと思った。どちらかというと自分でやってみないと気がすまないほうだから。多くの人がこういうのがないとか文句を言っているけど、文句ばかり言っていてもしょうがないので自分でやろうと思った。イギリスから帰国してヨーロッパの文化に触発されたこと、タイミング的なものもあったかもしれない。40歳になって、社会に対して何か貢献できる一生取り組めるようなことを始めたいと。これまでいろいろなことに手を出してきたけれど、そろそろ年貢の納め時だと。(2度目だけど(^^;。子供達のためにも。40にして惑わず。(笑)

――PI-Forumの理事長として2年間で達成したことは何ですか?
どこまで広がりがあったかは別として、3つのPIの重要性をPRできたと思っている。このような流れは歴史の中の必然だと思っているけど、各分野の問題意識を持った人たちが横断的につながり議論を交わすことができた。人と人のつながりやネットワークができてきていると実感している。また、結構多くの人が「PI-ForumのURLをお気に入りに登録してます」といってくれるのが嬉しい。

――PI-Forumをやっていてどんなことが楽しいですか?
やってみると考えていた以上に大変なことばかり。特に法人運営の雑用には閉口している。でも、たとえ一人でもやろうと決めたことなので続けたい。PI-Forumに集まってくる仲間が好きなんだと思う。意見が食い違ったり、仕事のやり方が違ったり、議論していると異種格闘技みたいな感じもあるけれど、それぞれ自分の領域で頑張っている皆が好き。PI-Forumのイベントが終わって、集まった仲間と打ち上げしている時が一番かな。

――PI-Forumから学んだことは何ですか?
学んだことは本当にたくさんある。一番、事務局が大変だった。「価値観が違う」「目標設定に対するシビアさが違う」といったメンバーを全体としてまとめ、組織として機能させることほど、大変なことはないと思った。個人によって目標や時間や提出物に対する厳しさが違う。それを何とかマネージメントしようとしたが、ある時それをやめようと思うようになった。つまり、NPOという組織が個人をコントロールするのではなく、個人が社会に対してやりたいと思っていることを、PI-Forumという場を使って実現してもらえばいいんじゃないかと。ただし、一度宣言したことは自らの責任できちんとやってもらい、それをNPOがいろいろな人達のネットワークを使ってサポートするというのが理想かなと。だから、やる気や思いのある人がいれば、いくらでも応援したいし、素晴らしい仲間を紹介したいと思っている。

――今後PI-Forumとして、どんなことをやっていきたいですか?
今のところ、PI-Forumという組織を存続させるために、きゅうきゅうとする気はない。逆に、みんなに「PI-Forumっていいね」と言われるようなことをやっていきたい。昔は、「何をやるか」ということを一生懸命考えてきたけど、今は「何のためにやるか」ということと「誰とやるか」ということをすごく大切にしている。何のために誰とやるかが決まれば、何をやるかというのはおのずと決まってくる。良い目標に対して、良いメンバーが集まれば、方法論というのは多種多様でも、出来ることはおのずと決まってくる。方法論は柔軟に考えればいい。その意味では、3つのPIを実現するために、信頼できる人や尊敬できる人、自分でイニシアティブを取っていける人と一緒に、それぞれが自分のできる範囲で活動したいと思っている。今は特に、老年、壮年、青年がそれぞれの世代から次の世代に何かを伝えていくことに興味がある。

――皆さんへのメッセージ
愛している!(笑) 男性でも女性でも生意気で素直な人、自らのイニシアティブで取り組む人が好き。評論家は嫌い。PI-Forumには素晴らしい仲間がたくさんいます。自分でできるところから一緒に始めましょう。

〔取材:鈴木、水谷(理事)、今井〕

(2004年8月6日発行 PI-Forumメールマガジンより)


 

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