異分野PI交流ワークショップ:
第9回:竹迫和代氏[ファシリテーター]((株)計画技術研究所)、
府高優子氏[協力]((株)アイテック)
「ラベルワークでPIの未来を描こう!」
竹迫氏は、現在(株)計画技術研究所の研究員として、また個人 としても、ファシリテーターとしてご活躍中です。今回は、「ラベ ルワークでPIの未来を描こう!」というテーマで,ラベルワーク を用いたファシリテーションを行っていただきました。
また,ラベルワークをコンピューター上で展開し図解化する技術 (ISOP)をお持ちの株式会社アイテック府高氏にもご協力を頂きま した。
以下、実際のワークショップの内容と、さらにワークショップ後 に交換された竹迫氏とのメールによる質疑応答を含めて要約します。 (文中のWSはワークショップの略です)
【ワークショップを始めるにあたって】
●「参加者がともにWSを準備すること」の大切さ
今回はWSに必要な模造紙、マジック、ポストイットなどを各テ ーブルに予め準備したが、「本来は参加者とともに準備をすること が大切」、との指摘からWSは始まった。
さらにラベルワークを始めるにあたり、グループ内での係り分担 を行った。これは、この場を全員で担うためであり、お茶等も参加 者が自ら用意する。通常は後ろに「備品だな」を作って備品係がと
りにいく。完全参加型。
準備段階には、各テーブルに折り紙で作った箱を用意し飴入れにし た。またWSの会場案内板を早めに集まった人で作成し、案内役ス タッフを適所に配置した。
●一番大切な「テーマの設定」
ラベルワークで一番大切なことは、「テーマの設定」。地域でやる 場合は、地域にとって切実なテーマでないと実感のあるラベルが出 てこない。竹迫氏の場合は、事前に地域に入って様々な話を聞くこ
とに一番労力をかけ、テーマや進行を地域の住民有志の方と一緒に 考える。
今回は、まず楽しく体験することに重きをおいたテーマ設定。テ ーマは以下の2つ。
テーマA「私がPI推進大臣になったら、何を日本国民に打ち出すか」
テーマB「好きなあの人を振り向かせるには?」
【プログラムの内容】
●オープニングタイム〜竹迫氏の自己紹介〜
普段は住民参加のまちづくりの現場でラベルワークを仕事として いる。今回は、ラベルワークという手法を体験しながら、合意形成 の可能性を探りたい。ご用意くださった資料には、竹迫氏の似顔絵、
竹に迫ると書いて「たかば」と読む、ホクロがポイントなどの自己 紹介が手書きで作成されており、とても暖かい雰囲気を醸し出して いた。
●アイスブレイキング〜名刺づくり〜
第7回ワークショップの中野民夫先生の会でも実施されたように、 WSに入る前にはアイスブレイクをする時間、緊張関係をとく時間が 必要。今回は、目の前に座っている人と向き合って名前や趣味など
を聞きながら、相手の名前とイメージを名札シールに描く名札づく りという手法を行った。その名札全体でその方の人格を表せるよう に、にぎやかしの絵などを描くとぐっと良くなる。このとき、参加
者は各々、相手の名前や趣味、好きな色を聞き出しながら親交を深 めていた。
●ラベルワークとは
開始にあたり、竹迫氏から下記のような概要・概念の説明があった。
「ラベルワーク」とは、広く知られたKJ法をイメージする人が 多いが、KJ法も取り込んだ概念として位置付けられているとの説 明があり(詳細は関連資料参照)。
○ラベル交流(ラベルケーション):
自分が感じたことをラベルに書いて、近くの人と気軽にラベルを 交換してコミュニケーションをとっていくもの。
例)感想ラベル:大学の授業が終わったとき、まちづくりWSが終わったとき
利点:一紙片に40字から50字に言いたいことをまとめるため、率直に伝わりやすい
○ラベル図考:
ラベルを構造化しながら、内容を整理する。その中にKJ法、NM法 (アイディアを出していく)、BD(Business Design 原因から結
果、目的から手段)、学びのプロセス図(例、大学の授業15回それ ぞれに学びの軌跡をラベルで残し、最終的に図考化し、自分の知の プロセスをあらわす)がある。
※竹迫氏は林義樹教授(武蔵大学)に学び、「NPO参画文化研究 会」の一員として、ラベルワークの普及に努めている。
(以降、竹迫氏の「私たち」との説明は同研究会としての見解)
●グループ内でも、「役割分担」から
まず、ラベルワークを始めるにあたり、グループ内での係り分担 を行った。各グループには、お世話係、ムード係、タイムキーパー、 他のグループの良いところをこっそりとってくるスパイという4つ
の役割分担を行う。グループの中だけで学びが簡潔してしまうこと が多々あるが、スパイの活躍により、全体でうまく交流し学びあう ことできるようになる。
○前提条件:「PI-Forumが考えるPIとは何か」
(PI-Forum 梅本嗣氏)
−テーマの「PI」のご紹介−
当NPOでは、3つのPIを提起しているが、本日は「パブリッ ク・インボルブメント」で考えてほしい。Pは計画を推進する主体以 外の市民・企業のこと、Iは「関与」「参画」してもらうというプロ
セスをいう。Consult、Involve、Collaborateという範疇をPIと考 えている。合意形成というゴールが目的ではなく、作っていくプロ
セスに価値を見出している。すでに考えている計画案が通るかどう か、白紙になるかどうか、という目的論があるわけではない。
●便利なラベルシートの利用
ラベルシートとは、複写ラベルであり、一度に三つ複写できるロー カルメールのようなものである。今回は、時間がないので枚数は4 枚。A,Bにそれぞれ2枚使う。ラベルの最後には自分のフルネームを、
ボールペンで書く。想像力を生かして、5分間で。
このラベルシートは記載後、複写の「黄色(主催者保管用)・ピン ク(自分保管用)・白(グループ作業用、シールになっている)」 に分け、他グループと交換。ぐちゃぐちゃに混ぜて、同じ枚数メン
バーに行くように配る。
(今回は参加者を4グループに分け、2グループずつがA,Bテー マを担当。参加者は全員、両方のテーマについてラベルに2枚ずつ 記述をして、自分のグループに2枚〔当該テーマ〕、横のグループ
に2枚〔違うテーマ〕に渡すこととした。)
●ラベルワークの進め方
1.ラベル書き込み
2.ラベル配布
3.ラベル載せ
模造紙を広げておいて、以下のワークを行った。
・折り紙セット、好きな色をグループ内で選び7、8枚机に並べる。
・世話役が、自分の持っているラベルを声を出して読み、自分の 好きな色に置く。
・自分も似たようなものを持っていれば、声を出して読み、同じ 折り紙に置く。
・急にまとまって集まると、大雑把な判断かもしれない。一枚の 折り紙の上にはたいてい2枚ある程度。わからないラベルはき ちんと書いた本人に確かめる。
(スパイとはこの確認を他グループに出向いて丁寧に行う聞き役 でもある)
4.看板作り
“お皿から聞こえてくる声”を一言で表現する
(どうして同じお皿なのか、全員でよく考えてみるプロセス)
5.お皿配置
お皿の間の「意味の近いもの」を近くにして並べる
6.関係線づけ
全体のストーリーをつくる、その過程で思いついたことはどんどん模造紙に書き込んでよい。
7.タイトルづくり
テーマに対する答になっていたほうが良い。
ラベルワークを経て、出来た4グループのタイトルは以下。
グループ1)「好きなあの人とふたりだけのひみつにたどりつくための恋のFUTASUJI路」
グループ2)「恋のあり地獄作戦」
…相手との距離を近づけて“はまった”ほうが勝ち 存在を気づいてもらうこと⇒相手に近づく戦略⇒近づ いた相手をひきこむ戦略
グループ3)「教育と気づきからはじめよう」
…強制(環境整備・・・経済的インセンティブ) ⇒直接的気づき(教育)・間接的気づき(テレビなど) ⇒自分から実践する
グループ4)「民主党の車道キャビネットの大臣として5つの公約をする」
…政権野党の民主党を前提に考えてみた。短期的には…、長期的には…、教育制度は…、予算的には…、制度的には…
(各省庁で強制的に10%は民間のファシリテーターで流動的に受け入れていく等)
8.発表会
●竹迫氏による今回のラベルワークへのコメント
4つのグループの取り組み姿勢・プロセス、最終的な発表物につい て全般的な所見をいただいた。
Point1:ひとりひとりが元のラベルを書いたが、「きちんと人に 伝わるように書けたかどうか」。「相手にわかるように自分の意 見が書けたかどうか」。は共通する大きなポイント。
Point2:ラベルをお皿に合わせる時、「作為的にならなかったか どうか」。 どうしても無理やり当てはめようとしてしまうが、そうすると見 出しをつける段階で、予定調和的なものになってしまう場合がある。
Point3:時間をかけて納得のいくカテゴライズをすべき。今回は、 例えば長期・短期という安心するカテゴリー分けをしてしまった ようなことはなかったかどうか。
(時間制約のある中で、実践してもらったので無理な面もあった)
また、一人ひとりの思っていることをラベルとして平等に出すこ とはできるが、最終的な合意形成(意思決定)の場合にリーダーシ ップに引きずられてしまうところがあった。特に、空間配置で全体 が見えてくると、そこに強力なリーダーがいた場合、リーダーの思 考にメンバーが引きづられる傾向がある。この場合は、メンバーの 誰か、もしくはラベルワークのインストラクター的な第3者が「お かしいぞ」と問題提起し、作業をいったん白紙に戻すなど試行錯誤 が必要である。
【図解ソフトISOPの紹介】
アイテックのイソップというソフトで、KJ法をコンピューターで支 援していくもの。 今回は府高氏が1グループに入り、平行して時間内にPCで作成。 デジタルなので、再利用すること、共有化が便。ISOPでつくり、 縮小版を持ち帰って納得のいかないところを書き込んだりできる。
【質疑応答・意見交換】
※これは当日出され、後日メール等でWS事務局から回答を頂戴し たものも含まれます。
<質問1>(後日文書で確認)
KJ法とラベルワークの関係性について簡単に教えて下さい。と くに、今回の実践された手法は、「ラベル図考」の中でどのように 位置づけることができるのでしょうか。
<回答1>(後日文書で回答)
ラベルワークには、「似たもの探しモード(1類と呼ぶ)」、「関 係探しモード(2類と呼ぶ)」、「物語づくりモード(3類と呼ぶ)」 の3種類があります。これでいくと特に「KJ法的」は1類にあたり、
本ワークショップで実施したものです。より正確にいえば「ラベル ワークの中の1類を実践したものであり、しかし、時間が足りず最 後の空間配置やタイトルづけの段階では、単なる分類手法で終わっ
てしまった」という表現になります。
ラベルワークとKJ法の違いという点ですが、私たち(参画文化
研究会)が開発し ている「ラベルワーク1類」は、KJ法がベースにあることは事実 です。
しかし、従来KJ法は時間がかかり、受講料も高く、ごく一部の 方のみ手法として活用されていたと思います。私たちはこれを、こ どもからお年寄りまで幅広く活用できるように改良を重ねてまいり
ました。細かい改良点をいくつか申し上げますと、
1)KJ法では、もとラベルをグルーピングする場合、クリップで留 め一度グルーピングしたら決して中身を見直したり離したり してはいけないことになっております。しかし、「ラベルワー
ク1類」は、「取り皿」という方法を開発し、もとラベルをい つでも見られるようにしております。
2)「ラベルワーク1類」は追加ラベルも大歓迎というスタイルで す。これは、KJ法ではいけません。
3)「ラベルワーク1類」は、取り皿をカラフルな折り紙で代用し ます。特にこどもや若い女性は、この取り皿をいろんな形には さみで切り取ることで、内容をよりわかりやすく表現しようと
します。こういう点もKJ法では見られない図解表現の一つです。
しかし、KJ法との最大の違いは、ラベルワーク自体に「1類(KJ 法的)」、「2類(BD法的)」、「3類(アイデア発想法的・ある 意味NM法的)」の3つのアプローチがあるという点です。ですから、 ある共通のテーマを複数の人で考える場合、作業を行う人の得意な アプローチによって同時並行で問題解決へ向かうことが出来るとい うことです。わかりやすく言いますと、「PIフォーラムの今後を検 討する」というテーマを設定する場合、Aさんは1類のアプローチ で例えば現状の課題を整理する、Bさんは3類のアプローチで輝か しい未来像を描いてみる・・・といった具合です。そして、最終的 にこの3つのアプローチの図解をそれぞれ発表し、統合してくとい う作業があります。ここまで行うと初めてラベルワークのダイナミ ックなおもしろさが実感できると思います。
また、もう一つ違いを言うならば、グループで行うKJ法はグループ としての個性は出ますが、個人の個性は表面に現れません。しかし、 ラベルワークでは、取り皿を楽しい形に切ったり、貼ったり、個人
個人分担して作業する場面が多く、一人ひとりの特徴が現れやすい 点があげられます。ちなみに林先生は「人間の知的活動、とりわけ 情報の発信交流及び、図解思考の道具(媒体)としてラベルを用い
る理論と技術の体系(『参加型学習とラベルワーク』平成11年度文 部省委託による学習方法開発研究会報告書より)」とラベルワーク を定義していらっしゃいます。
林先生の論文で、BD法やNM法のことを紹介しているものがございま す。ラベルワーク全般についても述べていらっしゃいます。ご参照 下さい。(資料として、武蔵大学人文学部 林義樹:『ラベルワー
ク』のコンセプトと『ラベル図考』の普遍的な母型手続き)
ちなみに、私たちはラベルワークを「ラベルケーション(ラベル を使ってコミュニケーションを取ること)」と「ラベル図考(ラベ ルを使って図にしながら思考すること)」の2つに分けています。 これまでの研修を振り返ると、ラベルケーションが好評です。 ですので、いきなりラベル図考から入るのではなく、ちょっとラベ ルに感想を書くとか、周りの人と交換して読みあってみる等から入 ると抵抗が少ないと思われます。
<質問2>(後日文書で確認)
ラベルワーク手法は、どのような目的、集まりで使用するのが適当 な方法論でしょうか?不適切な目的、参加者集団、時間制約上の無 理な局面などを含めて教えて下さい。のぞましい運営の規模(参加
者数、1回に要すべき時間、回数等)等からのご指摘でも結構です。
<返答2>(後日文書で回答)
ラベルワークはどのような目的でも、どのような集団でも使用でき るようにと、継続的に開発されています。もし、活用するにあたっ て「不適切な」事が生じれば、適切な手順、条件を加えたり、削っ
たりと、本人達が使いやすいように改良することを推奨しているの が特徴だと言えるでしょう。実際に、林義樹先生が創案された手順 をもとに、企業、社会教育、医療・・・とさまざまな分野の方が、
それぞれの活用目的に合わせて改良・実践した報告が数多く寄せら れております。参加者層としても、現在の所、小学校3年生(10代) から80代の高齢者までの実践報告があります。
その実践の時間も数時間の場合だと、簡略化した手順につくり変え ますし、1泊2日以上の長い時間の実践だと、細部に渡って本格的 な取り組みも可能です。ただ、ラベルワークとは、図を作ることだ けを目的としているわけではありませんので、発表会をして評価し あい、それを今後の活動や生活にどう生かしていくかということま でを導き出す事を理想としています。したがって、短時間になれば なるほど、ラベルワーク実施前後の遠隔ながらのフォローアップが 必要になってくる事がほとんどです。
規模は1人のファシリテーターの場合だと、20人くらいまでが妥当 だと思います。もちろんスタッフ数が多いほど行き届きますので、 ラベルワーク経験者が初心者に教えるというシステムの導入が可能 ならば、どんなに大きな規模でも可能だと思いますが・・・。時間 については上記の通り。回数については、どんなに短い時間であっ ても、活動の最後には発表会(報告会)をするようにしながら、次 の回へつなげていくというような配慮が必要だと思います。具体的 な回数については、何回でも。。。ただ、2時間1回キリというよ うな場合は、かなり厳しいですね。
<質問3>(後日文書で確認)
テーマ設定の「段階(フェイズ)」には、理論上・あるいはご経験 上、どのような分類がありますか?
<返答3>(後日文書で回答)
まず、1つは「問題意識」の段階があります。これは、何か今モヤ モヤと思っていることを出し合ってみる段階です。次に「現状把握」 の段階。これはまさに現実はどうなっているか調べてそのデータ
を整理する段階。次に「本質追求」の段階。これは、前段の現状把 握をふまえ、なぜそのような問題が生まれるのか原因を探る段階で す。次に「構想計画」。これは夢や奇想天外なアイデアを出し合う
段階です。次に「具体策」。ここでは前段の構想計画をふまえ、実 際にできそうなことを考えていく段階です。そして最後が「行動計 画」。実行のスケジュールを考える段階です。これは、KJ法のW型
問題解決のスタイルです。その後、11年度文部省委託による学習方 法開発研究会において、「ひょうたんモデル」という問題解決のプ ロセスモデルを考えましたが、もうひとつ煮詰まっておりません。
これは、思考レベルと行動レベルにわけて、8つの段階を位置づけ ています。テーマ設定に関しては、参画文化研究会で作成している 「ラベルワークの進め方」という冊子をご覧下さい。
<質問4>(当日)
最初に出す数を制限したが、普段はどうなのですか。
<返答4>(当日口頭)
制限する場合が多いです。「衆目評価」を行って、絞込んでからラ ベリングを行います。
<質問5>(当日)
グループの中で、決め事をする時などに投票というような方法を採 ってもいいのですね。 どういうタイミングで投票するのか難しいと思うのですが。割り切
りで投票になってしまわないでしょうか。
(関連で、)
投票という発想の場合、合理的に(多数決的に)選ぶという考え方 と、これはすごく光っていると誰かが強くこだわっているから残す というような方法もありますね。
<返答5>(当日口頭)
どのタイミングがいいかも、普通、共通に深く考えて行うものだと 思います。
単純な多数決ではなく、後者であるべきだと思います。
<質問6>(当日)
タイトルづくりの正解なイメージがわからないのですが。
<返答6>(当日口頭)
その図解全体が発しているメッセージを読みとり、一文で表現する というのが原則です。コツは、お皿同士を何度も何度も構造化して みることです。そうすれば、おのずと見えてくるのではないかと思
います。
<質問7>(当日)
グループワークの後、いちど個人ワークが入ってもいいのではない ですか?
そのあとまたグループワークをするとよいものが出来るかもしれな いと思います。
<返答7>(当日口頭)
以前、お皿を作るところまではグループで、空間配置は個人ワーク、 というのを試みたことがあります。時間がかかるものの、結果とし ては良いストーリーが書け、予定調和も避けることができた経験が
あります。
<質問8>(主催者追加質問)
今回は、社会課題の合意形成に関心を持ち、そのために多くのワー クショップでのファシリテーションの手法の学習を実践的にしたい という対象者が中心でした。時間的制約も含め、やりにくい面も多
々あったと存じますが、WSでの作業ぶりを拝見されていて、何か お感じになったことがありますでしょうか?
<返答8>(後日文書で回答)
全体的に慣れていらっしゃって、頭の回転が速いなあという印象を 受けました。それはそれでいいのですが、皆さんがもし小集団に入 ったら、内容を創ってしまうのではないかとちょっと心配になりま
した。あと、言葉がわかりにくいです。PIの知識もないごく普通 の住民を対象とするならば、いつの間にか皆さんの「普通」になっ ている話し方や表現の仕方が、逆に距離感を覚えさせるものになら
なければといいなあ、と思いました。
<質問9>(主催者追加質問)
竹迫さんがラベルを用いてファシリテーションされる場合に、よく お考えになられている価値観や規範のようなものがあれば教えて下 さい。
<返答9>(後日文書で回答)
気をつけていることは、「当てはめ思考」に陥ってはいないか、と いうことです。時間が制約されている場面では、ついついある一定 の成果を出さねばならないので、ラベルの声を無視してしまいがち
になります。しかしこれは、ラベルワークという範囲を超えて、私 は非常に危ない現象であると考えています。特に「参加型」がもて はやされ、ファシリテーターが脚光を浴びるようになればなるほど、
ファシリテーターの独りよがりの思考が広がるのではないかと危惧 しています。そうならないためにも、日々トレーニングしないとい けないなあと痛感します。私の場合、それはラベルワークなのです。
もう一つ気をつけていることは、「自分自身の生き方としての参画・ ラベル」ということです。私が研修でやっていること、あるいは ファシリテーターとしてワークショップを企画・運営していること と、自分自身の生き方のスタイルが一環しているかということです。 例えば、私は家庭内でもラベルワークを導入しています。毎年結婚 記念日には、この1年の反省とこれから先の目標づくりなどをラベ ルワークで行っています。やりながら、改めて家族の本音がわかっ たり、方法として改良すべき点などがわかってきます。これからも 研修やワークショップを行う際には、自分の生き方から裏打ちされ たことを発信していきたいと思っています。
最後に一つ。私の行う研修やワークショップは、よく「モヤモヤ感」 が残ると評価されます。あるいは、作業の最中にケンカ(らしき こと)が起こったり、参加者ではない人がいつの間にか教室に入っ てきている等。だから、いつも先が読めない運営です。でも、いつ も大事にしているのは「個の開放」と「学びの場の開放」です。 うまくできなくてもいいので、ちょっとチャレンジする。本音を言 ってみる。そういうちょっとしたパーソナルチャレンジを大事にし たいなと思います。
【主催者所見】
竹迫氏のワークショップには、「ひとりひとりを大切にし、個人、 家族、社会を育んでいくためにはどうしたらいいのか」、そのよう な教育理念から発していると思われる温かみと親しみがありました。 しかし、参加者の中には、合意形成という目的到達に関心が強く、 一方でビジネス・官庁等の現場で効率性を重んじる立場に身をおく 方も少なくなく、竹迫氏の提起する「個の開放」、「学びの場の開 放」は抽象的に映り、目的整合性や価値観の違和感を生むものでした。 ワークショップ直後からこの概要をまとめるまでに、主催者を中心 として幾度となく議論を繰り返しました。そういう意味では、ワー クショップという場以外でも、開放的・創造的・包括的に、参加者 ・主催者自らその「部分」を担うかかわり方を目指す竹迫さんのワ ークショップのあり方そのものが、竹迫さんの提起の枠を超えて展 開されたのではないか、と思っています。
「ラベルワークという手法への正確な理解」と「竹迫氏が提起する 価値観」を伝え合い、議論するのは短時間ではかなり難しく、主催 者としてのマネジメント能力・努力の不足を反省するものでした。 この反省に基づき、また今期のワークショップにおけるファシリテ ーター技法を学ぼうとする発想から、異なる思考の「対話」のきっ かけになれば、という思いで、竹迫氏、および研究会の皆様にまで 議論・検討をいただき、この概要報告のまとめに当たった次第です。 参加された方、これを読まれた方の何かのきっかけになれば、と切 望いたします。
〔文責:PI-Forum第2期ワークショッププロジェクト:梅本嗣/水谷香織/浅古尚子〕