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異分野PI交流ワークショップ:

第10回:浅海義治氏((財)世田谷区都市整備公社まちづくりセンター)
「参加のデザインとは何か?」

浅海(あさのうみ)氏は米国で環境デザインについて学ばれ、MIG(ム ーア・アイソファノ・ゴルツマン)事務所のチーフデザイナーを経て、 1994年より世田谷都市整備公社まちづくりセンターでまちづくり事 業の支援をしておられます。今回はそのご経験に基づき、「市民が参加 するためのデザインとは何か」という課題を通して、ファシリテーター とはどうあるべきか議論しました。以下、どのような講義と実際のワー クショップが行われたのかを要約します。


セッション1.参加のデザインとは何か(レクチャー)

【1.イントロダクション】

参加を企画運営するとはどういうことなのか。「それを運営する 人=ファシリテーター」とすると、「ファシリテーター」の役割とは どういったものなのかを、実際にシミュレーションしながら考え、 最後に議論をできればと思う。

【2.まちづくりから見たWS(ワークショップ)の意味】

●自分が“参加”に関っている動機
 もともと「環境デザイン」つまり、公園、道、公共施設、街並み、 景観など、町の中のパブリックな空間の計画やデザインが私のバッ クグラウンド。暮らしを豊かにする居住環境と、それに対する「公 共」のあり方に関心がある。現在は世田谷区のまちづくりセンター で、公園緑地などの公共施設を近隣の人たちと対話しながら計画し て整えていく仕事や、その後の管理運営はどうすればいいのかなど、 住民と行政の協働のあり方について具体的活動を現場で進めている。
 そもそも“参加”に関心をもったのは、現在の公共空間への問題 意識から。その問題意識とは例えば、「本当にユーザーの求めるデザ インが、行政や専門家によってつくられているか」という疑問。バ ンダリズムやゴミ捨てに代表されるような、「パブリックな空間に 対する住民の関心の低さ」。住民グループが公園でイベントをしよう としても、「あなただけにそれを許すのは公平ではない」といった対 応など、行政による「公共空間の管理運営の硬直化や閉鎖性」。住民 同士の関係が希薄になっており、公共空間で起こるトラブルは全て 行政に苦情として持ち込まれるなど、「地域の問題を住民自身で解 決できない」問題と、その結果としての規制や禁止事項だらけの使 いにくい公共空間の姿。
 以上のような公共空間を取り巻く現状を変えていくには、その計 画やデザインにあたって、カタチを整えることと同時に、「人と環 境」そして「人と人」との関係を再構築していくことが大切だと考 える。それが“参加”に向かう私の動機。

(浅海後記:イキイキとした豊かな公共空間をつくるには、計画 や整備そして管理運営への取り組み方を、“管理の発想”ではなく “つくり育てていく発想”に転換していく必要があると思います。 その発想の転換は、行政にも、住民にも、専門家にも必要です。し かし今は逆に、「人と環境」や「人と人」の関係の分断がますます広 がる状況にあります。これからの公共空間づくりには、これらの関 係の再構築を視野に入れる必要があり、そのために「参加」は不可 決だと考えています。)

●“参加”へのスタンス
 矢嶋さん(第8回WS講師)のお話ではファシリテーターは「中立」 で「内容」に関心を持たない、ということだったが、私は“参加” が生み出す成果(内容)に関心を持っている。以下の3つがない場 合は「参加」のプロセスにあるとは呼べないと考える。

1)相互学習:分断されている人たちが相互に学びあうこと
(例えば住民と住民、また住民と行政、あるいは住民と専門家など)
2)意思決定への参画:「意見聴取」だけでは参加と呼べない。なん らかの形で参加者に意思決定への参画が担保されるべき。
3)関係づくり:参加プロセスで築かれる、新しい人と人のネ ットワークや協力関係、地域の組織化などを生み出すこと

(浅海後記:以上に挙げたのは、ソフト面の目標ですが、もちろん 参加してできあがるハード面の成果、つまり「空間の質」も非常に 重要と思っていて、双方を両立させるのが私の「参加」への想いで す。)

【3.WSは両刃の剣】

 WSは、他の参加手法に比較して有効な面が多いが、もちろん万能 ではない。公共の意思決定に関しては以下の理由から限界もあるの で、その点を踏まえた活用が大切。

・誘導のツールとしても有効である=>運営者の倫理観が問われる。
・その場の勢いに流されやすい=>客観的に全体を見ながら、意思 決定プロセスにおける位置づけを考えられる人が必要。
・結果として参加者を選択しがち=>2、3時間のWSに参加してくれ る人はそれなりに意欲のある人たち。
それ以外の人々への情報提供や意見聴取なども必要。そのために インターネットや紙媒体など、さまざまな参加のプロセスを用意 する必要がある。

(浅海後記:アメリカの都市計画ファシリテーターの第一人者であ る、ダニエル・アイスファノ氏は、ニュースやヒヤリングなどの“受 動的手法”から、ワークショップなどの“積極的手法”までの全体 を捉えて「参加手法のスペクトラム」と呼び、参加の目的や参加対 象者の特性に応じて複数の手法を選択し、組み合わせて参加を運営 することを提唱しています。全くそのとおり。その他の手法に比べ たWSの特徴と利点とは、異なる価値観が生み出す集団創造性が期待 できること、顔と顔をあわせた共同作業から生まれる人間関係の形 成力、そして、五感による“気づき”に基づく理解が促進されるこ と(これは人と環境の双方への理解に対して)、にあると私は思って います。)

【4.参加デザインの3要素】

 “参加のデザイン”、つまり住民参加の企画運営は、以下の3つの 側面からとらえられる。

1)プロセスデザイン:「調査->課題の発見->ビジョンの構築->実現 方策の比較検討->意思決定と実施->検証とフィードバック」と いった計画プロセスに関連づけた、住民参加の役割とフローを 構想すること。
2)参加形態のデザイン:参加してもらう必要のある人たちの特定、 その人々にとっての適切な参加手法の選択、参加の呼びかけ主 体やファシリテーターは誰かなどの運営形態を考えること。
3)プログラムデザイン:集まりを実り多いものとするため、各会 議や各WSなどの具体的進め方や運営方法を企画すること。限ら れた時間を有効に使うための、情報提供の方法、話し合いのテ ーマ設定と話し合いの順序、共同作業を円滑にするための工夫 (意見を引き出したりまとめたりするための小道具、会場の空 間設営など)が鍵。

(浅海後記:上記の3つの中で、特にプロセスデザインの構想が重 要かつ難しい。なぜなら、「住民参加を何のために行うのか」、とい う本質的な問いへの答えに密接に関係してくるから。その考え方次 第で、プロセスは全く異なったものになります。そしてプロセスの 違いは、参加の成果(内容とレベル)を左右します。)

【5.ワー“句”ショップ】

 縦書き資料「ワー“句”ショップ」の簡単な紹介。この句集は、 WSの定義づけ、意味づけについて、私が今までに関ったワークショ ップ講習会参加者につくってもらったり、自分で考えたものを集め たもの。これから、ロールプレイでみなさんに参加の企画をしても らう。その中でワークショップについての色々な想いが沸いてくる でしょう。今日のWSが終わったあとに、みなさんにも一句作ってい ただきたい(会場笑)


セッション2.プロセスデザインの演習(ケースワーク&問題提起)

 レクチャーに続き、今回は浅海さんご自身がまさに現在手がけて いらっしゃるプロジェクトを事例にした演習を数名のグループ単位 (3つ)で約1時間行い、各3分程度の発表を行いました。  この演習では、グループワークの手法として、模造紙(議論の整 理と発表用の台紙用)を机上に置き、大きめサイズのポストイット を自由に使い、カラーマジックを数色用意の上、各グループの自主 的な判断で展開しました。

 参加の企画運営を依頼されたコンサルタントのつもりになり、以 下の具体的な課題への取り組み方検討を通じて、ファシリテイター の本質に関わる議論も含め、めざすものは何か、やりかたはどうす るかなどを話し合い、プレゼンテーションをめざしました。

(浅海後記:今回のワークショップでは、書き込みシートやカード などの小道具をあまり用意せず、まとめ方や話し合いの方法も、各 グループの自主性にまかせました。実は、通常の私のワークショッ プのやり方では、あまりとらない方法です。それは今回の参加メン バーを考えると、課題さえ明確であれば、自由に討議を進められる 人々の集まりだと思ったからです。また、ひとつの結論をグループ でつくりあげることより、その過程で“参加”の考え方の相違に気 づきあうことを、今回のWSの目的としてより重要と考えたからで す。)

〔設定された課題〕

 東京S区のA小学校では、校舎の老朽化などの理由により改築計画が 決められ、改築プランの基本構想が策定されました。そして、基本設計 策定段階に、6年生の総合的な学習の時間を使って「子供ワークショッ プ」を行い、生徒の意見を活かそうということになりました。
 皆さんは、この総合学習の時間の“子どもWS”の企画運営を任された コンサルタントです.今日は11月22日で、子どもたちへの改築プラン の原寸説明ツアーが終わったところ。そして、担任の先生たちの授業計 画は「計画をたてよう!(9つのテーマに分かれた子どもたちのアイデ アが既に出ている)」という段階まで進んでいます。
 さて、今後の「参加のデザイン」をどうするか。これからどのような 参加プログラムを企画・運営するか、進め方と自分の役割について考え てください。ちなみに、基本設計の内容は、来年の1月下旬に環境審議 会にかけられる予定で、その後のプランの大幅な変更は難しい状況です。

註)環境審議会とは…条例に基づいており、ある規模を超える計画 に関しては「どのくらいの規模で緑をとるのか」などを審議する。そ の後、木の種類を変えることくらいはできるが、ボリュームに関して 変えることは難しい。
 基本設計とは …「基本構想」でおおまかなプランをまとめ、 次に「基本設計」として具体的なプランをつくる、次に「実施設計」 をつくり工事の現場へ渡し、「工事」に入る。

(浅海後記:このケースの様に、実際の参加プログラムは、ある与 えられた状況の中から発想することを余儀なくされます。全くの白 紙から計画を立てられることは、ほとんどありません。)

〔グループワークの論点〕

◆子供のアイディアをそのまま生かすことを目指すのか?
=>参加住民のアイディアをそのまま生かすことが参加の目的 か?
◆依頼された“子供ワークショップ”を行いそのまとめをするだ けでよいか?
=>参加の成果を反映するためのコーディネートは誰がするのか?
◆隣接や地域住民の声は取り入れなくてよいのか?
=>誰が決定に関与すべきなのかについての判断はどうするか?
◆校庭が狭くなりすぎるという子どもの声に対しどういう立場をとるのか?
=>委託者の前提条件についてどのようなスタンスをとればよいか?
◆子供の自由奔放な発想を制限する必要はあるのか?
=>参加者が考える方法や内容をコントロールすべきか?
◆ファシリテーターの役目

「中立的立場から議論を整理する、プロセスを管理する、内容を操作しない」に徹することで、よい結果を生み出せそうか?
=>よい結果とは?〜「参加」で何を目指しているのか?

(浅海後記:今回は子どもワークショップを題材にしましたが、そ こで投げかけられる論点は、大人対象のワークショップなど、どん な住民参加の取り組みにおいても同様に課題となります。)

〔グループワークの状況・発表から〕(主催者所見)

 全グループがこの事例を扱う価値を「子供の学びの機会」と捉え それを機軸に検討していたことが大きな特徴でした。

 グループワークの方法論的には、視点・アイディアを先行させ、 その結果プレゼンが視点カテゴリーの発表というかたちになったグ ループもあり、一方で時系列にプログラムすることとその過程での イベントを大いに利用する、という発想からのまとめもあり、さら に「時系列と子供たちが関わるべき関係者」のマトリックスから検 討を進め、構造から発表したグループと多様だったのも特徴的です。

 グループでのアイディアを総覧すれば、随所で、子供たちが自ら 気づくための発想や機会を提供すること、子供たちが自ら学んで次 の段階での判断を主体的に行わせること、のアイディアに溢れてい ました。例えば校内の下級生はもとより、父兄、近隣住民、専門家 との知識や意見の交換のプログラムや仕掛けづくり、模型を使った リアリティなどの判断機会の提供などが挙げられます。参加された 方々にはさながら、建設的な総合学習を自ら考える学びの機会とも なったようです。

〔グループワークを通じての浅海氏の所見〕

●価値・目標設定の中で進め方も成果目標も変わるはず

 進め方の企画を考える中で、「価値判断」がなされています。そう した企画者の価値観との関連でワークショップの「目標設定」がな され、限られた時間や状況の中での進め方が取捨選択されたはずで す。
 つまり現実の中では、「目標設定いかんにより進め方や成果も変 わる」ということを体験していただけたのではないでしょうか。  ではこの演習ケースでの正解はあるのか。一般解があるとは思え ないのが私の答です。
経験的に言えば、プロセスデザインをする場合、多様な可能性を模 索しながら、その固有の状況における特殊解を導いています。
 PI(パブリック・インボルブメント)の技術・知恵をつくる、 という考え・立場からそれでいいかどうか、どう捉えるか、の議論 が今後皆さんの中で必要かもしれません。

(浅海後記:誤解がないように補足すると、「目標設定」は“参加の 原則”とでも言うべき、ある規範となる考え方にのっとって設定さ れるべきだろうと考えています。その“原則”の確立が今必要だと 思うのですが、そこのところが人によってまちまちに捉えられてい るのが現状です。また、目標設定ができた後の具体的プロセスデザ インについては、それこそ色んなアプローチが考えられます。一般 解があるというより、個々の状況に合わせた特殊解を見つけていく という行為で、どちらかというとアートに近い領域だと思っていま す。)

●演習ケースへのコメント

 このケース自体について少々言及すれば、子供たちが考えたり学 んだりするための視点の提供、調べる対象・方法の示唆が大切です。
 子供たちが最初に出しているアイディアは、遊具、飼育小屋、植 え込みなど、空間として分断されて発想されており、また「ハート 型の××」いうようにいきなりカタチの提案になっています。です から「それらを空間的に連続したものとして考えてもらう」という 働きかけや、「個々のカタチの背景にあるはずの大切な思いを発見す る手伝い」などが必要だと思います。
 そうした過程の中で、「子供たちが本当に望んでいることは何 か?」を探り、「その場所を誰がどのように使うことが一番よいか」 レベルのことも色々と具体的に想定できます。そうなると、ぐっと 設計にも実質的に役立つ提案になってきます。
 一方で「ものづくり」として模型づくりを行い、全体のつながり への発想を具現化してもらうことも有効と思います。
 また、学校の子ども以外の人々(学校の先生、PTA、隣接住民、地 域のまちづくりグループ、行政の関連部署など)からの意見を集め ることも必要です。私たちのプロセスデザインでは、そのような多 様な立場の意見を集めて子どもにも伝え、最後に子供たちがその内 容を吟味判断して、自分たちの「提案」をまとめ、発表するまでを 一段落の流れとしました。

●(改めて)ファシリテイターの役割とは?−ケース設定の論点提起−

 参加を実り多いものとするためのファシリテーターの役目は多様 です。ただその役目は、その時々の参加の目標や、参加する人々の 顔ぶれ、そして運営形態などから示唆を受けて変化するというのが 私の持論です。
 たとえば、“ビジョンという視座”にたてば、「戦略家」であり 「調整者」であり「今行っていることの意味づけ者」であることが求 められることが多いはずです。
 “創造の視座”にたてば、「問題の提起者」であったり「よき質問 者」であるべきです。
今回のようなケースでは、設計の専門家と子供の間の「翻訳者」で あることも必要ですし、もちろん「多様な意見の整理者」、打開糸口 の「提案者」であることが求められる場合もあります。
 さらに、“組織運営の視座”にたてば、やる気を起こさせる「鼓舞 者」、必要な情報を提供して意思決定のタイミングを図る「秘書」の 役割、目標に至る道案内役としての「引率者」の役割も求められま す。このように多様な役目がファシリテーターには期待されるので す。

(浅海後記:このような、万能のファシリテーター像に一個人が近 づくことは可能でしょうか?多彩な能力に加えて、扱うテーマへの 深い理解が求められます。現実的には、プロジェクトメンバーのチ ームワークによって様々に役目が分担されたり、参加する人々から の手助けを得ながら進んでいくのです。ただ、参加の総合プロデユ ーサーとしては、上に述べた視座を持ち続けていることが大切だと 思います。)


セッション3.参加者との意見交換

Q:「子供たちのよりよい環境デザインをめざす」という役割だった と認識していますが、 他のステイクホルダーから「不公平だ」だとの意見が出る恐れ はありませんか。
A:今回のケースで言えば、学校改築という問題ですから、 「その第一義的利用者である児童たちの意見を、設計立案過程に反 映することの重要性」について地域住民にも説明すべきだと考えま す。

Q:極論かもしれませんが、子供にとって「結局デザインは無理だっ た」というフィードバックをすれば学習になるのでは」とも思うのですが。
A:私としては夢を出させておいて「これは無理でした」と いうフィードバックを最後にするのは、参加者にとって腹が立つも のだと思います。それは、次の参加への意欲を減退させます。参加 の成果を現実につなげるには、提案づくりの前提条件や受け入れら れる範囲をきちんと事前に伝えておきたいものです。「何でも希望 を述べてごらん」といって、あとで主催者がそのアイデアを採用す るかどうかを判断するというのは、単なる“意見聴取”にすぎませ ん。住民参加では、このような「中途半端な参加」「計画性のない参 加」が、結果として参加者を裏切るような形になり、一番良くない と思います。

Q:ファシリテーターは、「時間」というものについて、どの程度ま で関与、管理すべきだとお考えでしょうか?
A:時間についても管理が必要です。住民が参加できる時間 は限られており、その時間を最大限生かす努力が、ファシリテータ ーには求められます。また、プランなど前提条件を事業者から伝え られた時も、「どこまでいじれるのか」をまず考えることが大切だと 思っています。変えられる範囲をどう広げていくかを考えるのも重 要な役割です。

Q:それは「プロセス・コンサルタント」という領域ですね。 一般に言われるファシリテーターよりも広く、「コンサルをし ながらファシリテーションもする」という立場の印象を受けましたが。
A:「プロセス・コンサルタント機能」は、ワークショップ の実施に不可欠な条件です。それが、公共事業の意思決定であれば なおさらです。その上で、もちろん狭義の「ひとつのイベントやWS に投入されるファシリテーター」という役目や機能者も必要です。

Q:ファシリテーターの役目として、「企画者の恣意性に左右されず に、参加者に意見を出させる」ということは大切だと思っていますが。
A:そのような考え方はワークショップの基本です。ただ、 公共事業への住民参加の現場では、「プロセス・コンサルタント」と しての役割が重要になります。あるひとつのまとまった成果を、限 られた時間の中でつくりあげることを求められるのです。ですから、 「何の進め方の計画もなく、そして話し合いのテーマの設定なく、 何でも意見を言ってもらう」ということはほとんどしません。

(浅海後記:最近、“受動的ファシリテーター”と“能動的ファシリ テーター”ということをよく考えます。“受動的ファシリテーター” というのは、参加者の自由な考えに基づく進め方を最大尊重し、あ まりコントロールしようとしない人。いわば、聞き役とまとめ役に 徹する人です。これに対し“能動的ファシリテーター”というのは、 参加の生み出す成果を最大にするため、進め方や話し合い方までコ ントロールしつつ進める人。いわば、プランナーとしての役割まで 踏み込む人です。公共事業の意思決定への住民参加においては、後 者の立場が必要だというのが私の見解です。)


【主催者所見】

 「プランをもらったら、“どこまでいじれるのか”をまず考えるこ とが大切。変えられる範囲をどう広げていくかも役割」−浅海氏の この発言が実は、今回のWSの主催者側である私たちとの関係性を 雄弁に物語っています。そして同時に、WSやファシリテーターの 「生き物」としての性格を著わしています。
 今回の異分野ワークショップシリーズ(第2期WS)は、まさに ファシリテーターの実践からの学び合いがテーマです。私たち主催 者のつくる大きな論点や参加者に提供される刺激、問題提起の流れ、 2時間強という制約…様々な観点から非常に適切かつ簡潔なレクチ ャーと演習ワークを設定していただいた、と浅海氏に感謝していま す。

 当日(時間不足のためキチンと参加者にお願いし損ねたので数は 少なかったのですが) アンケートの中に、「ファシリテーターの役割を、今まで限定して考 えていたのですが、目的の達成のため、プロセスまでマネジメント していくという柔軟な発想が大切と感じた。」 との感想が寄せられています。
 ファシリテーターをメソッド熟練に基づく議論進行者である、と いう認識論(役割論)がある一方で、プロセスを主体的にマネジメ ントする広義の役割が一方で広く期待されているというマーケット がある、ということは事実です。
 これは当然ながら、ファシリテーターの求められる資質や経験能 力というものを大きく規定し直す相違が生じる問題です。

 こうした現実論がある一方で、特に「行政」などが「住民」に対 し開催するWSなどのケースでは、どちらにも与しない、(もっと言 えば直接支払いする側に与しない)という意味での議論への中立性 も、依然、大切な前提ではないでしょうか?
 PI(パブリック・インボルブメント)発想の合意形成・価値創 造を進めていくためにはWSは不可欠な機能です。WSにはファシ リテーターが必要です。そう考えていった場合、一元的なファシリ テーター像が定めにくいとともに、一方でどのような立場・機能で ファシリテーターを務める場合でも共通する価値規範が存在するの では?、というテーマが浮上します。またファシリテーターとして プロセス・コンサルタントをも担う場合、どのような価値観に基づ き、何を成果として行うのか、の明示化が関係者に対して必要にな るのかもしれません。
 私たちPI−Forumに投げかけれた解決課題は大きなものが あります。 (梅本嗣)

〔文責:PI-Forum第2期ワークショッププロジェクト:梅本嗣/浅古尚子〕

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