異分野PI交流ワークショップ:
第1回 東京工業大学大学院 原科幸彦教授「廃棄物処理施設をめぐる環境処理紛争」
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第1回として、東京工業大学の原科教授をお招 きし、「廃棄物処理施設をめぐる環境処理紛争」についての実践的 なケース分析をご紹介いただき、各分野の参加者との意見交換を行 いました。
原科氏は、東京工業大学大学院工学研究科教授であり、環境計画・環境 アセスメントやそれらを重要な手段とする合意形成・紛争解決につ いて研究を蓄積されています。著書に『改訂版:環境アセスメント』 (放送大学教育振興会)などがあります。
以下その報告と議論の要約です。
■環境アセスメントに不可欠な「情報公開」と「参加」
そしてネクストステップとしての「話合い」の場の形成実験
環境アセスメントの本質は、実は「意思決定過程の透明化」にある。 そしてそのために必要な「情報公開と参加」が可能となった意義は 大きい。環境アセスの導入によって、我が国でも「情報共有」が可 能な段階を迎えた。環境アセスメントは、事業判断に必要な情報の 共有に貢献することから、紛争を解決する基盤を提供する仕組みで あると考えられる。
だが環境アセスメントを、より有効に使うために、次の段階として 「話合い」の場の形成への努力・工夫が必要となっている。原科教 授自身が関与された先行事例として、『狛江市のごみ中間処理施設 建設計画における市民委員会設置』(1991〜1993年)と『長野県の廃 棄物処理施設建設のための検討会設置(2001年〜)』の実施プロセス が紹介され、参加者との意見交換が行われた。
■狛江市のごみ中間処理施設建設計画における市民委員会設置事例
狛江市が建設予定地を発表した後に紛争(反対運動)が起こった際、 紛争解決のために、「話合い」の場として市民委員会が設置された 事例に原科教授は専門家の委員として参画された。「こまえごみ市 民委員会」は、行政(1名)+専門家委員(6名)+市民委員(12名) により構成された紛争解決の推進組織であった。委員会は、市側が 示した32ヶ所から8ヶ所に候補地を絞り込み、さらに2ヶ所(市 役所庁舎内の駐車場、当初の候補地)に絞込む作業を行った。この 2候補地についてさらに検討を重ねるため、拡大委員会(=市民委 員会+2候補地周辺住民により構成)が開催され、総合評価の結果、 当初、市が提示した候補地が最適と判断に至ったケースである。こ のケースでは、建設場所の決定後、リサイクル・センターの設計に は周囲の環境へ配慮するための工夫が施され、建設後も市民委員会 による管理が継続されており、現在のところ環境上の問題は生じて いない。このケースを通じては、@委員会のメンバー構成と人数、 A議論の公開とその記録の公開、B情報提供と参画者・住民の学習 プロセス、が重要であったというのが原科教授の分析である。
■長野県の廃棄物処理施設建設のための検討会設置(2001年−)
長野県の事例では、産業廃棄物・一般廃棄物併設の廃棄物処理施設 を豊科町に建設するとの計画案が存在したが、住民合意が得られな い状況で、田中知事が白紙からの検討(建設すべきか否かを含めて)
を決定したことに起因する。田中知事は知縁を得た原科教授に「話 合い」の場の形成を依頼し、原科教授は委員長を引き受ける条件と して、以下の7つの条件を提示したという。それは、
「@委員構成、A事務局の独立性の確保、B会議の公開、C情報公 開の徹底、D住民参加の推進、E会議全体のスケジュール、F中立 性の高い委員長を選ぶこと」の7つである。検討委員会の構成は、
委員長1名、専門家委員6名(地域内・地域外の専門家各3名ずつ) と市民委員12名となった。専門家委員は関係者と相談の上、委員 長の選考により決定、市民委員は公募により決まった。市民委員の
公募では36名の応募があり、積極的な賛成派(自治体首長でもある 広域施設組合長)、反対派(環境団体)の代表の参画を得られた上、地 域バランス、年齢、男女比の構成を考慮して12名が選考された。
長野県の事例は、自治体における一般廃棄物処理だけでなく広域 的な産業廃棄物の処理も対象とされているので、問題が複雑となっ ており、それだけ議論には時間がかかっている。検討プロセスでは、
「ホップ(政策)→ステップ(計画)・ジャンプ(事業)のプロセ スを踏んでおり、最初の段階からステイクホルダーの参加が組み込 まれていた。その際、広域的な発想を喚起すべく見学会を実施する
など、学習プロセスや議論への工夫がなされている。現在、検討委 員会での検討はスケジュールの2/3まで終了したところであり、 ジャンプ(事業の検討)の段階に進みつつある。一見事業検討の入
り口までで時間がかかっているようであるが、ホップ(政策)・ス テップ(計画)にさかのぼり参加型の検討を行うことが重要だとい うのが、原科教授の見解である。
■委員長の選考方法、専門家の役割、コンサルティングのあり方
−ワークショップ参加者との論点から−
ワークショップの議論においては、委員長の選考方法、専門家の 役割、コンサルティングのあり方等に関して活発な議論が行われた。 委員長の選考方法に関しては、選挙、委員会委員の間での互選、首 長による任命といった方法があり、どの方法が適切かは場合により 異なるのではないかといった議論が行われた。原科教授によると、 長野の事例は知事による任命であるが、知事の支持率が高かったこ と、委員長である原科教授が長野県外の専門家であることによって、 信頼を得ることができたという。また、委員会における専門家の役 割については、専門知識をインプットするという役割と全体を運営 していく専門家という役割は別なのではないかといった議論が行わ れた。原科教授は機能分化すべき場合もあるがすべきではない場合 もあるのではないかという見解であった。さらに、このような参加 型委員会を運営する外部のコンサルタントの報酬の低さについても 議論された。一般的に日本ではこのようなソフトへの投資の重要性 が重視されておらず、その点の改善が必要であるという意見が出さ れた。
○ 主催者所見 (副理事長 城山英明)
このワークショップにおいては、原科教授によって、合意形成の 前提条件としての情報共有の重要性が主張されました。この点につ いてはいろいろ議論もあるでしょうが、現在合意形成を進めるうえ では不可避の条件になっているといえると思います。その上で、委 員の選定の仕方、その前提としてのサーベイの重要性、運営方法等 について、狛江と長野という具体的実験に基づいた大変興味深い方 法論が提示されました。
どのような方法論が存在するのか、いかなる方法論がいかなる条件 で望ましいのかについては、今後のワークショップにおいて示され る様々な方法論を比較検討することになると思います。その際、今
回の議論でも提示された、委員や委員長の選考方法、専門家の役割、 運営コンサルティングのあり方は重要な着眼点でしょう。