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異分野PI交流ワークショップ:

第2回 東京電機大学理工学部教授 若松征男氏
「コンセンサス会議 ―日本における設計と実施の諸問題―」

東京電機大学理工学部教授 若松征男氏

若松氏は、東京電機大学理工学部教授であると同時に「科学技術 への市民参加を考える会」代表であり、これまで、コンセンサス 会議を日本に導入する試みをされています。今回は、そのご経験 から、コンセンサス会議という仕組みについて、また日本で制度 設計する場合の諸問題についてお話いただきました。

■ コンセンサス会議とは

コンセンサス会議とは、科学技術に関わる問題について、一般 市民(素人集団)が、多様な専門家から質疑応答を通じて情報を 受け取り、その上で、その問題について議論・評価をし、合意に 至る努力をした時、どのようなまとめが出てくるのかを見る仕組 みである。一般市民が科学技術について議論した時、専門家や行 政が行った場合と違う結果が出てくるのではないか、そして、そ れを政策決定に生かせないかという考え方であり、専門家と一般 市民との関係を「対等の関係」へと導く可能性を示すものである。 若松教授は、コンセンサス会議は「ゲーム」として捉えることが できるという。その際、ゲームのルール、すなわちコンセンサス 会議方式の「核」の部分(ルール)と、現実に行われているゲー ム、すなわち現実に特定の環境下で行われたコンセンサス会議と を区別して捉えたいという。

コンセンサス会議は、「参加型」テクノロジー・アセスメントの 流れから生まれたものであり、それを生み出したのが、デンマー クである。ところが、このコンセンサス会議は、90年代に入って ヨーロッパだけでなくアジア、オセアニア、北米といった様々な 国で試みられるようになったことが注目される。ただし、デンマ ーク、オランダ、スイスでは国の仕組みとして制度化されたが、 それ以外の国では制度化にまで至っていない。また、「コンセン サス会議」という名称を使っていない国もある。とはいえ、その ルール=「核(ハート)」の部分、すなわち市民パネル・専門家 パネル形式は共通している。

■ 日本での試みと日本への適用のために考えたこと

若松教授が日本でコンセンサス会議を試みるにあたって、当初 は「日本にはコンセンサス会議はなじまない」と思っていたが、 実際行ってみてそうではないという感触を得ることができたとい う。まず実験的試行として、第一回『遺伝子治療を考える市民の 会議』(1998年1月〜3月)、第二回『高度情報社会―とくにイン ターネットを考える市民の会議―』(1999年2月〜9月)を開催し た。その後、農水省スポンサーの『遺伝子組換え農作物を考える コンセンサス会議』(2000年7月〜11月)、旧科学技術庁スポンサ ーの『ヒトゲノム研究を考えるコンセンサス会議』(2000年11月 〜12月)を開催した。

日本での制度設計を検討する際、まず資金提供者がいるかとい う資金面の問題から考える必要があった。次に参加者の問題とし て、日本人がこのような方式になじんでくれるか、という条件を 念頭におく必要があった。まず「コンセンサス会議」という言葉 は必ずしも一般的に知られていないため、最初は『市民の会議』 という名称にした。さらに、長丁場のプロジェクトに参加しても らうために、参加者に無理のないよう、開催日を土曜日とするな ど工夫を行った。また、コンセンサス会議開催には専門家の協力 が不可欠であり、協力してくれる専門家がいるか否かがテーマの 選択にも影響した。若松教授が強調されたのは、広報体制の大切 さである。このような方式が社会的な意義をもつには、できる限 り広く伝えられることが必要であり、コンセンサス会議を成功さ せるためには、マスメディアの協力が不可欠であるという。

また、日本での実施を通じて見えてきたポイントとして以下の二 点を指摘された。第一に、「コンセンサス会議は何のために行う のか」、すなわち、科学技術政策とのかかわりで何をしようとし ているのかを明確にすることである。そして第二に、一般市民や 行政の両方から信頼を得るために、「中立性」「公平性」「透明 性」の確保が必要となることである。

■ コンセンサス会議の性質・機能をどのように捉えるか
―ワークショップ参加者とのやり取りから―

ワークショップの議論において、政策決定過程におけるコンセ ンサス会議の位置付け、コンセンサス会議のテーマ、マスコミへ の公開といった論点について、活発な議論がなされた。

市民パネルは市民の代表であり、その結果は政策決定過程に直 接的に反映されるべきなのか、あるいは必ずしもそうではないの かという議論が様々な角度から行われた。若松教授は、市民パネ ルは、市民の「代表」ではなく、多様な人たちが課題について議 論した時にどのような合意がなされるのかを示す一つの「サンプ ル」だと理解しているという。従ってコンセンサス会議は、対立 そのものがまだ見えない段階で、むしろ対立を明白化させるため の手法として適していると言うことができ、その意味で、コンセ ンサス会議は「緩やかな参加」であって、本来的に政策決定への 参照情報として活用されるものになじむだろうとする。ただし、 主催者が行政機関である場合には、コンセンサス会議を審議会と 同様に捉えることは可能であり、その結果を政策形成への直接の 資料として使用することは不可能ではないという見解であった。 コンセンサス会議のテーマはこれまでは科学技術関係のものが 採り上げられてきたようであるがそれに限られるものではなく、 より幅広いテーマで可能なのではないのか、また、教育の手法と しても有用なのではないのかといった議論も行われた。若松教授 は、コンセンサス会議方式の意義は、専門的知識に覆われている (隠されている)事柄について、それを明らかにし問題を考えて いくプロセスにあるという点にあり、テーマは必ずしも科学技術 に特化しないのであり、例えば年金についても可能ではないかと された。また、教育における有用性についても認めた上で、対話 を通じた学習プロセスは、市民だけが行うのではなく、専門家・ 行政の学習プロセスでもあると指摘された。

また、メディアへの公開については、逆にメディアに取材される ことでバイアスがかかることはないかとの意見が出された。若松 教授は、準備会合、市民パネルの議論は非公開で行われ、公開さ れるのは、専門家とのやり取りと合意文書の発表の時であること からその弊害は少なく、むしろ最初は、社会に広く伝えてもらう ためにメディアは欠かせないという。

第2回ワークショップの模様


○ 主催者所見 (副理事長 城山英明)

今回の若松教授のお話では、コンセンサス会議は合意形成を直接的 に目指すものではなく、社会における意見のサンプルを明示化する ことであるという点が強調されました。このようにして社会の様々 な意見が明示化されることが、社会全体の合意形成にとっても重要 なステップになるということなのだと思います。また、コンセンサ ス会議運営の具体的苦労についても明らかにされました。遺伝子組 み換え作物に関するコンセンサス会議についてスポンサーである農 水省との交渉に数ヶ月かかったこと、専門家を確保するのが大変で あり実は専門家の確保できる分野から戦略的に開始したということ、 メディアことに新聞の科学担当取材部にアプローチしたこと等はい ずれも示唆的なヒントであったと思います。
 

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