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異分野PI交流ワークショップ:
第7回:中野民夫氏(ワークショップ企画プロデューサー/博報堂勤務)
「ワークショップとファシリテーター
−教えるから、“引き出す”場のナレッジを俯瞰する」
中野さんは、企業・行政・NPOをつなぐ企画に携わる一方、環境や 人に関る市民活動に従事なさり、多くの現場でワークショップを経 験なさってらっしゃいます。今回は中野さんご自身がファシリテー
ターとして、教室の場作り(音楽をかけたり、椅子を円に並べたり etc)から全ての流れを担当してくださいました。以下、どのような 講義と実際のワークショップが行われたのかを要約します。
【イントロダクション】
参加の心得には、三つのTとEがある。す なわち、「体験(experiment)から学ぶ」「互い(each other)から学ぶ」 「楽しんで(enjoy)学ぶ」ということ。ここで、全員で自己紹介、あ
だ名で呼び合うことにする。
【ミニ講義1:ワークショップとは何か】
もともと英語の意味は「工 房」「仕事場」「作業場」。つまり、いっしょに何かを作る、前近代的 な集団手工業の場から来ている。
●発展の歴史
まず現代演劇の中で始まった。専門家による演劇から、 誰にでもできるものという発想や作り方であり、あるテーマを決め、 演出家や俳優を中心に非専門の参加者も参加して自由な討論や交流
を行うもの。例えば、平田オリザの青年団では、女子高校生をテー マにした演劇をつくるため、実際の女子高生を集めてワークショッ プを行いながら仕上げていったという。次に、現代美術にも用いら
れた。今までの美術指導が、教師の上から下への一方通行に偏って いたことを改め、相互交流、創造的精神活動の場を優先させたワー クショップ的な集団政策方式がとられた。 これは美術館における
教育活動の一環として最近急速に普及している。そして最後に、「ま ちづくりの分野」でもはじめられた。1960年代にアメリカの景観デ ザイナー、ローレンス・ハルプリンが考案した理論が最初といわれ
る。「多様な民族、宗教観が錯綜するアメリカで、価値観の異なる 人々が共同してよりよい環境を計画していくシステム」として考案。 これは、参加者が共通して理解できる感覚的事項から出発し、信頼
関係を構築しながら創造的成果に集約していくもの。住民、市民参 加のまちづくりワークショップはここに端を発する。最近では以上 の3分野だけでなく、環境教育、国際理解教育、企業研修、ビジネ
スの現場など、多様な分野で展開されている。このような多様なワ ークショップについて、中野氏は【個人(内向き)―社会(外向き)】 と【学び(受容的)−創造(能動的)】の2軸で整理し、アート系、
まちづくり系、社会変革系、自然環境系、教育・学習系、精神世界 系などをマップ上にポジショニングし、整理している。
●定義/特徴の規定
ワークショップには様々な定義があるが、暫定 的に、「参加者が自ら参加・体験し、グループの相互作用の中で学び あったり創り出したりする、双方向的な学びと創造のスタイル」(参
加体験型のグループ学習)と捉えることにしている。この三大特徴は 「参加」「体験」「相互作用」である。
○「参加」
ワークショップには先生はいない。自ら主体的に参画する意思が 重要。強制参加の場合はモチベーションが低いので、あくまで双方 向の場であることが重要。
○「体験」
「体験」とはつまり、言葉を使って頭で考えるだけでなく、 「1)体験する→2)観てみる→3)分析する→4)概念化する」、 という循環の中で、学び続ける「体験学習法」のプロセスを
重視するということ。 ボディ(身体)、マインド(知性)、スピリット(直観、霊性)、 エモーション(感情)の四つの要素からのアプローチによる
全人的な教育である。
○「相互作用」
自分とは違う他者から学びあうことによって、個の総和を超 えた力を生み出す(シナジー、コラボレーション)こと。
->参考文献:「ワークショップ−新しい学びと創造の場−」
中野民夫著 岩波新書
【ミニワーク1:「ワークショップ」を新聞で表現しよう】
●作業内容:新聞紙一枚でワークショップのイメージを作成作業: 切っても、折っても自由、日常的に多用する言語表現とは異なる表 現方法を用いて、自分のイメージを表現し、他者に伝える試みを
参加者全員で行う。 これについて簡潔に参加者に発表を行う。結 果:箱を作ってそこから発想が膨らむイメージを持つ人、紙を ひねって紐にし、輪にする瞬間に価値観が繋がるようにする人な
ど、十人十色の結果が出る。お互い驚きを持って楽しんでいた様子。
【ミニワーク2:「合意形成」とは何かを共有しよう】
●作業内容:“他己紹介”を用いて視点を広げる作業:
Step1:2人(AとB)それぞれが10分ずつ、「合意形成」について相 互インタビューする
Step2:4〜6人ずつくらいの小グループに分かれ、お互いに聞き取っ た内容を紹介する(=他己紹介)
Step3:グループ同士で、他己紹介をめぐって、自由に話し合う。
Step4:大きな円に戻り、それぞれのグループの中での分かち合いを 紹介する
他己紹介の内容:−合意形成に関する考え方−
ここでは中野氏の このフォーラム外部者の立場からの「素朴な疑問−合意形成とは、 完全な意見の一致をイメージするのか、それともそうではないど んなイメージなのか−」から始まった。 他己紹介のインタビュー
を通じ、「合意形成」に対する認識は多様だが「完全な意見の一致」 を目標視するのではなく、たとえば「反対者がゆずれるよう、あ る程度の落しどころを探すこと」「妥協できる範囲で納得できる
ようにもっていくこと」「不満が残らないこと」「意見をぶつけて 可能性をよく吟味した後にやってくる割り切り方」「完全な人間が いないように、完全な答えもないとの前提で、納得をえていくこと」
などの捉え方が報告された。また、合意形成は、「毎日、日々の生 活の中で必要となっていること」との認識を持つ人が多く、「次の ステージに進むためにはいつも必要」だという意見もあった。(た
とえばそれが「メンバーがやりたいことは共有しているけれども、 その内容やとらえ方が違う時」) 各自の経験も踏まえての『合意 形成がうまくいく時、いかない時』ということについては、
・うまくいくのは、 「考えが違っていても、ともに実現できそうだと感じる時」 「集中した議論の時を共有したとき」「まとめ役がうまくリ ードしている時」「参加者の考えの相違に対する想像力があ
った時」、
・うまくいかないのは、 「上下関係が残っている時」「こだわりがある時」など。より一般 化し、『合意形成がうまくいく条件』というレベルでは、
・「ミッションが明確であること」「相手の立場を相互に尊 重しあい、任せる気持ちをもつこと」「密度濃い共通の時間をすご すこと」「当事者意識を参加者に持ってもらえるよう取り組む強い
意志をもった進行役がいること」「本音の情報を開示すること」な どが挙げられた。一方で、方法論への反応として参加者からは
・「相手の意見を聞き、確認する作業を経験。日ごろ、相手の言うことをよく機会は少ない。つい自分の辞書で解釈してしまう場合が多い」
・「話している間は、相手の言うことを聞くというルールがあるから、聞きやすい」
・「こうした試みを何回も繰り返すと、相手が理解できる可能性がある」
といった、“このプロセスで自分の考えがどう変わったか” に関する意見が披露された。
中野先生からは、「スペースがあれば、記入した紙をはっておくと、 互いの考えが分かる。2人で仲良くなる時間が必要。一度に大勢と 仲良くなれなくても、少人数同士が仲良くなる。少なくとも1人と
つながることで、その場につながる感じがもちやすいし、絆ができ る」とのアドバイスを頂いた。
【ミニ講義2:「ワークショップ」の必須条件】
●必須条件
深い学びに結びつくワークショップの必須条件は1)場 づくり2)プログラム3)ファシリテーター、の三つである。1)「場 づくり」とは広義には「人がどのような気持ちで集うか」の準備。
狭義には、「輪に」なって 座るということ。これは相互に反応しや すい場づくりと言える。名札をつけるなど様々な工夫ができる。2) 「プログラム」とは限られた時間で、目標に向かって、より効果的
な学びや創造が起こすためには 「仕掛け」が必要であり、この仕掛 けの集合体がプログラム。流れのある「つかみ」・「本体」・「まと め」のデザインが大切。「まとめ」では、ふりかえり、わかちあいを
全体でする。アンケートな どのフィードバックも大切。3)「ファ シリテーター」は、先生がいないワークショップの要である。進行促 進役として、みんなの 意欲、アイデアを引き出す。引率して案内する
ツアーガイドとも言える。
●ファシリテーターの条件8カ条
フ:ふらっと現れふらっと去る。 オイラは脇役、縁の下の力持ち
ァ:在りようそのものが見られてる。 その場その時にしっかりと在れ!
シ:事前の準備は入念に。人事を 尽くして、天命を待て!
リ:リラックスしているとみんなも安心。 でも時にはキリリとメリハリを!
テ:丁寧に耳を傾けよく聞こう、 一人ひとりの多様さを!
ィ:一番大事な「場」を読む力。常にこと全 体に気配りを!
タ:タイムキープはしっかりと。無理なく自然に、か つ容赦なく!
ア:遊び心、ユーモア、そして無条件の愛と信頼を忘 れずに!
●ワークショップの意義
ワークショップの意義は、グループ相互 のシナジー効果によるクリエイティビティ、自ら学び続ける関係と 場づくりが未来への活路となるのではないかという部分、そしてデ
ジタル時代の補完としての生身のコミュニケーションの深化、多様 性と共生へのヒントとしての気づき、つまり個々の違いや多様性が、 障害ではなく豊かさになるという部分、そして市民意識・民主主義
の成熟につながる主体性をはぐくむというところにある。ワークシ ョップは「ゆりかご」。安心できる関係性の中で変容しあえる魅力的 な場だと考えている。
●ワークショップの限界と注意点
ワークショップは「非日常」、だ からこその意義を忘れてはだめ。現実から逃亡するワークショップ 中毒にならないこと。また、アブナイ洗脳との峻別をせねばならな
い。そして時間がかかる効率の悪さを認識してほしい。しかし、大 事なことは急がば回れで、あせらずに。
●ワークショップ応用への課題
「ワークショップとは何か」につ いて参加者間での認識を共有化すべきである。また、主体的な「参 加」意識を選択制や動機付けなど何らかの方法でしていくべき。フ
ァシリテーターという存在と技術を踏まえていくことも必要。そし て「目的」を明確にしてワークショップを利用する。ワークショッ プは手段であって、目的ではない。
【自由討議】
今回の経験を踏まえた参加者たちから、ワークショップをどう現 場に活かしていくのか、海外の現状への関心、日本の構造的問題に まで議論は発展した。具体的には、
・「現場でどうなるかに興味。利害関係がもろに出る場でワークショ ップがどう使えるか。人生を背負って出てくるときに、人が“素” になるのは容易ではない」
・「ワークショップでは急に結論は出せないのではないか。気づき や発見を望む程度にしておかないといけないという印象を抱いた。 結論を求める場では使わないほうがいいかもしれない」
・「現在の行政の発注方法や支払い方の再検討につながる課題があ る。プランニング一括で予算がつくことが多い現状では、ワークシ ョップ単体では発注選択がされにくい。優秀なファシリテイターが
きちんと正当に選択され、よいワークショップを行えるようにすべ き。」
・(関連して)「その意味で、ファシリテーターの役割がきちんと 認知されていない。ハードには金がつくが、ワークショップだけで は予算がつかない。それがネック。」
【フィードバックアンケートから】
参加者からのフィードバックとして、以下のような意見を聞くこ とができた。
●印象的だったこと
・相互インタヴュー:説明を受け、自己解釈し、文字にして、 その結果も確認してもらう。それを繰り返すことによって、理解 が深まる。これが合意形成の過程?だなと思った。
・「ソフトにお金のつかない社会」という言葉
・話の中に「アブナイ洗脳」があったが、これは初めての発見。 よいと思えたことが、ただの「陶酔」になっていないか、振り返っ てみたいと思う。
●よかったこと
・ファシリテーター、WSへの期待がふくらんだ
・他者に聞いてもらえる能力、そして聞く能力が大切だと感じること ができた
・自分の仕事に活用できるかも、という程度のヒントを得られた
・同じ人でも場によりいろんな面が出てくる、ということを知れた
●感想
・「よい」WSって何だろう
・本当に能力の高いファシリテーターの方々がドンドン出てきてほし いと思う。
・「場作り」に関って「場」のルール共有をどう図る、図れるかを考 え続けている。これはぜひ答を得たいと思う。
・トランスフォーメーション(変態)という考え方が非常に面白いと 思う。ただ、もともと個人が持っていた価値観というものは、どの レベルまで変容することができるのかとも思う。この状況はどうい
ったものか、更に知りたいと思う。
プロジェクトチーム所見:
私たちはつい、大きな社会課題の解決を想定し合意形成の重要性 を議論してしまいます。そしてその世界の重要イシューとして「ま ちづくり」があり、ワークショップやファシリテーターの意義を認
識するということが多くあります。しかし一方で、「ワークショッ プ」の広い世界から、合意形成という課題がどう位置づけられるの か、その相互認識が今回の企画の出発点でした。各地で、さまざま
な領域でワークショップという形態で何かを実践されているあらゆ る方々への敬意、理解こそが必要だからです。
僅かな時間でしたが「合意形成とは何か」について参加者個々の多 様な捉え方、表現が伝えられ、視野の交換ができる機会となりまし た。その中で特徴的だったのは、個人対個人で答える形式のためか、
制度や技術論よりも個人の取り組み姿勢、コミュニケーション力の 重要性が目立ち、多者間の合意形成と他者との交渉(恋愛や夫婦な ど)の技術を連続性のある視点で捉える向きも多かったことである。
自分が聞いた内容を、相手になりきって一人称で発表する。さらに 見出しには一言で相手の言いたいことを書く。その中には、「皆が 皆のためにと思うこと」、「愛」といった“素にして、魅力的な”
言葉も詰まっていました。
「合意形成」、「ワークショップ」等に関する課題が個人の中で深 められるべく、“ひとときのゆりかご”を揺らし、“ふらっと現れ ふらっと去られた”中野氏のファシリテーションの技術に大いなる
賛意をおくりたいと思います。
〔文責:PI-Forum第2期ワークショッププロジェクト:梅本嗣/浅古尚子〕
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