このページはPI-Forumとして活動していた頃のウェブサイトをアーカイブしたものです。

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  NPO法人 『PI−Forum』
       メールマガジン 第21号
                   (2004/1/13)
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□ 目次

【トピック】

[イベント情報(報告)]
●平成15年度土木学会四国支部 調査委員会
 第3回 土木技術者のための
 合意形成技術の教育方法に関する研究会のご報告
  (土木技術者のための合意形成技術の教育方法に関する研究会
   開催支援事業担当:石川雄章/野田昭子)

【事務局Voice】

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■平成15年度土木学会四国支部
 合意形成技術の教育方法に関する研究会
 第3回研究会(11月15日開催)のご報告
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平成15年度土木学会四国支部
第3回 土木技術者のための合意形成技術の教育方法に関する
研究会

日時:2003年11月15日(土)11:00〜18:30
於:高知工科大学 研究B棟2階  203室

(有)教育総合企画 代表 野沢聡子氏
「協調的交渉術セミナー」
(協調的交渉術による合意形成技法の研修プログラムの実体験)

 野沢氏は、企業で勤務された後、1996年にコロンビア大学教育学
大学院の組織心理学科で「協調的交渉術」に出会いその有用性を実
感し、帰国後「協調的交渉術」トレーニングの普及に取り組んでお
られます。現在、地方自治体の職員研修や大学の講座などでもセミ
ナーを実施し、新しい発想のコミュニケーション方法を伝えるため
に尽力していらっしゃいます。
「協調的交渉術」は、コロンビア大学では初級編、中級編、実践
編で構成されていますが、今回は、初級編(ステップ1,2,3)
のうちのステップ1を四国で初めて紹介していただきました。ステ
ップ1のワークショップでは「問題解決に有効なコミュニケーショ
ンの理論とスキルを理解する」「『協調的交渉術』に必要なコミュニ
ケーション方法を理解し、実践する」「『協調的交渉』に不可欠な諸
要素を学び、実際に交渉を行なってみる」ということをその目的と
して行なわれます。以下、そのセミナーの要録です。

1.カードを用いた自己紹介・他己紹介
参加者は4つのグループ(1グループ6人)に分かれ、各グルー
プの中で会場まで一番遠方から来た人がリーダーとなった。そして、
A6版のカードが配布され、その中央に自分の名前を、また四隅に
それぞれ「所属」「趣味」「印象に残った本・映画」「今日のセミナー
に期待すること」を記載する。そのカードを用いてグループ内で自
己紹介が行なわれ、その後、各グループのリーダーによって参加者
全員に向けての自己紹介、他己紹介が行なわれた。「和菓子づくり」
「人と人とをつなげること」「市民活動」といった個性豊かな趣味も
飛び出し、会場の雰囲気を和ませた。各参加者の「今日のセミナー
に期待すること」は全て前面の模造紙に書き出され、最後の振り返
りに使われることになる。

2.「対立・衝突」という言葉からイメージされることは?
「対立・衝突」という言葉から頭に浮かぶイメージを参加者全員
が順番に一つずつ挙げていった。「嫌悪感」「避けたい」「後味が悪い」
「戦争」など、否定的なものがほとんどであったが、その一方で「創
造」「話せばわかる」といった前向きなイメージのものもあった。否
定的なイメージに捉えられることが多いのは、対立や衝突が人間関
係の崩壊を招くと考えられていることがその原因ではないかと野沢
氏は指摘する。このマイナスイメージには国境がないが、欧米では
プラスの側面も挙げられており、モートン・ドイッチ博士(コロン
ビア大学名誉教授)からは、「停滞を防ぎ、興味・関心を呼び起こす」
「問題を顕在化する」といった対立や衝突がもたらす効果も報告さ
れている。また彼は、「コンフリクト自体は良くも悪くもなく、どう
扱うかが問題である」と言っている。

ここで「あなたが体験した対立・衝突は?」というテーマで、ま
ず各個人でその状況、原因、結果について考え、それぞれの事例に
ついてグループ内で話し合い、その後各グループから一例ずつ発表
を行なった。その一つ、「社内旅行をめぐる集団内コンフリクト」で
は、社内旅行に対する会社からの補助金が打ち切りになったことを
受けて旅行を中止しようとする反対派と全額自己負担でも決行しよ
うとする推進派が対立するという状況にあった。その原因は「会社
への愛着心」や「補助金の打ち切り」といった親睦や金銭に対する
価値観の相違であり、また3分の1の有志のみで決行したという結
果は来年も同様の状況を生み出しかねないことから、問題の「先送
り」にあたる、との分析がなされた。その他にも、「棚田のあり方を
めぐる地元住民と町外棚田ファンのコンフリクト」「学科間のスペー
スをめぐるコンフリクト」「商店街活性化イベントにおける商店街内
外のスタッフにおけるコンフリクト」といった事例についての発表、
分析がなされた。

ドイッチ博士によると、コンフリクトの争点は「資源をめぐって」
「好き嫌いをめぐって」「価値観をめぐって」「信念をめぐって」「関
係をめぐって」のいずれかに該当する。氷山に例えると、水面上に
見えている「氷山の一角」が活動、その水面下にあるものが価値観
や信念にあたることから、価値観と信念については特に解決を図る
のが困難であるとされる。

3.問題解決のための手段
問題解決の手段としては、以下の6つが挙げられる。
1)先送り
 情報収集などのために時間を要する場合や感情をコントロールす
るために用いる場合には有効な手段になることもあるが、単に問題
の解決を避けるために用いると、後で必ず未解決の問題が噴出する
ことになる。
2)交渉
 当事者同士が話し合いによって問題解決をすることであり、交渉
には「協調的交渉」と「競合的交渉」がある。「協調的交渉」とは、
当事者が同じサイドから物事を見る状況をいい、長く付き合ってい
く人間関係の中で信頼関係を壊したくない場合に用いられる。これ
に対し「競合的交渉」とは、当事者が反対側から物事を見る状況を
いい、一時的な関係においては肯定的に用いられる手段ともなり得
る(旅先での値段交渉など)。
3)調停
 当事者間で問題が解決できない場合に、中立的立場である第三者
(調停者)を交えて和解に向けて問題解決すること。調停者はあく
まで当事者間の合意を導くだけであり、最終的な判断を下すのは当
事者である。
4)仲裁
 第三者を交えて対立・衝突に対処する点では「調停」と似ている
が、「仲裁」においては問題解決の最終的な判断を下すのは第三者(仲
裁者)である点で「調停」とは異なる。なお、この仲裁者の判断は、
法的拘束力を持つ場合もある。
5)訴訟
 当事者間の問題を裁判所に持ち込み、法律によって「勝ち・負け」
を求める方法である。
6)闘争・戦争
 当事者の一方または双方が、それぞれの目標達成のために武力行
使をすることが「闘争」である。さらに大規模で組織だったものが
「戦争」となる。

 これら6つの手段のうち「交渉」が、当事者自身が問題解決のプ
ロセスと結果に責任を負うことから、最も有効であると考えられる。

4.問題解決法を図で見ると?
 ここで、2人1組になって向かい合い、1分間のミニ・ゲームが
行なわれた。それは、如何なる手段を用いても構わないので、2人
の間にある境界線を越えて相手を自分の陣地に引っ張り込むという
ゲームである。手段を相談していて成立しなかったグループ、ジャ
ンケンや引っ張り合いで成立したグループなどがあった。
 横軸(X軸)を相手への配慮、縦軸(Y軸)を自分への配慮とし、
問題解決の方法を平面上で図示すると、横軸も縦軸も高い(X軸、
Y軸ともに+)ゾーンが「協調」、横軸が高く縦軸が低い(X軸が+、
Y軸が−)ゾーンが「譲歩」、横軸が低く縦軸が高い(X軸が−、Y
軸が+)ゾーンが「競合」、横軸も縦軸も低い(X軸、Y軸ともに−)
ゾーンが「回避」となる。
先に行なったミニ・ゲームを例にとると、手段を相談していて成
立しなかったのは「回避」、引っ張り合いは「競合」、2人ともが境
界線をまたぐという方法が「妥協」にあたる。「協調」は、双方がそ
れぞれのゴールを話し合い、合意の上、お互いに場所を入れ替わる
ことになる。

5.さまざまな交渉方法
 交渉方法としては、以下の6つが挙げられる。
1)情報伝達(Informing)
 自分の建前、本音、気持ちを相手に伝えること。
2)情報収集(Opening)
 相手の建前、本音、気持ちなどについて、客観的に質問し、確認
すること。これには、「聞く」「質問をする」「言い換えをする」とい
う3つのスキルがあると言われている。
3)歩みより(Uniting)
 共通点を強調し合う言動であり、緊張感をほぐし、友好的関係を
築くこと(挨拶なども含まれる)。問題の見直しにより代替案を提案
し、問題解決を導くこと。
4)攻撃(Attacking)
 脅す、苛める、侮辱する、正当化するなど、相手の敵意をあおる
ような全ての言動であり、自分が意図していなくても相手が脅威と
感じれば、それは攻撃になる。
5)肯定的先送り(Evading)
 仲間と相談したり、作戦を練ったり、冷却期間を置いたりするた
めに先延ばしにすること。
6)否定的先送り(Evading)
 無視する、話題を変える、引いてしまうなどの言動を指す。

 協調的交渉術には「情報伝達」「情報収集」「歩みより」の3つの
方法が大切だと言われている。また、競合的交渉には「攻撃」「先送
り」「情報伝達」がよく用いられる。

 ここで、事前に申し出ていた有給休暇を直前になって上司が受け
入れないというケースについて、上述した6つのそれぞれの方法で
上司に対する返事(会話文)を考えるグループワークが行なわれ、
グループ別に発表した。
 あるグループからは、「今、休暇をとるなんて、何を言っているん
だ!」と声を荒げる上司に対する情報伝達の返事としては「具合の
悪い叔母の看病をしようと考えていたため、以前から休暇願を提出
していました。払い戻しの不可能なチケットも既に購入しておりま
すので、休暇をいただきたいと思います。」、情報収集による返事と
しては「その仕事は私にしかできないことでしょうか。また、休暇
先から対応させていただくことは可能でしょうか。」、歩みよりの返
事としては「残業をしてでも今週中に仕事は済ませますので、来週
は休ませてください。」、攻撃の返事としては「休暇については既に
届出済みです。有給休暇は私の権利です。」、肯定的先送りの返事と
しては「同僚と代わってもらえないか相談してみて、2,3日後ま
でにご連絡させていただきます。」、否定的先送りとしては無視する、
といった例が紹介された。これに関して野沢氏より、歩みよりにつ
いては「我々の問題」として捉えることが大事なので、「この問題に
ついて、一緒にご相談にのっていただけますか。」といった、2人で
問題解決しようとする姿勢を示すことが有効であるとのコメントが
付け加えられた。
同じ状況下においても、返事の仕方一つで相手との関係が大きく
変化することを参加者は実感することができた。

6.あなたのコミュニケーション・スタイルは?
ここで、「あなたのコミュニケーション・スタイルをみてみよう」
という標題のもと、相手と意見の食い違いや対立を生じた場合にお
ける45問の想定質問、例えば「相手の短所をついて優勢に立とうと
する」、「相手の話を聞かない」等に対し、「大抵そうだ」を4、「ほ
とんどない」を0とし、5段階で回答していった。この想定質問は
「攻撃」「先送り」「情報伝達」「情報収集」「歩みより」のいずれか
の性格に該当しており、各性格に9つの想定質問が割り当てられて
いる。例えば「相手の短所をついて優勢に立とうとする」は「攻撃」、
「相手の話を聞かない」は「先送り」といった具合である。全ての
回答を終えた後、野沢氏よりそれぞれの想定質問の性格が明らかに
され、それぞれの性格ごとに望ましい点数が発表された。自分のコ
ミュニケーション・スタイルを数値的に判断できる仕掛けになって
いるわけである。これは参加者にとって自分のコミュニケーショ
ン・スタイルをあらためて見直す機会となった。

7.協調的交渉の諸要素
 協調的交渉の要素としては以下の5つが挙げられ、これを分析し
適切に対処することで協調的交渉が可能となる。
1)対立点
 ぶつかり合っている表面上の主張のこと。これは、建前であって
本音が見えないことが多く、同じもの(こと)で争っていると思っ
ていても、実際は異なっていることも多い。
2)本音・欲求
 交渉する直接の理由や動機である。
3)問題の見直し
 双方の最優先事項を満足させるために、争点をもう一度別の視点
から見て、対立点や本音・欲求を明らかにし問題点を再構築するこ
と。
4)代替案
 当事者双方の最優先事項を満たすアイデアを代替案と呼ぶ。最優
先事項が変化すれば、自ずと代替案も変化する。
5)妨害案
 相手のゴール達成を妨害する脅しなどを妨害案と呼ぶ。「協調的交
渉術」では妨害案を出してはいけないが、実際の交渉を行なう前に、
自分と相手の妨害案も全て出して整理しておくことにより、禁じ手
になる、或いは感情的になるのを避ける、という効果を持つ。

 例えば、1個のオレンジを奪い合う幼い姉妹の例で考えてみる。
一見すると同じものについて争っているように見える「オレンジが
欲しい」という主張は建前(Position)であって、母親が「何故この
オレンジが欲しいのか」を尋ねると、その理由は「マーマレードを
つくるために皮が欲しい」という姉と「中身を食べたい」という妹
と、その本音・欲求(Needs)は異なっていることも多い。しかし、
往々にして理由を聞かずに母親は半分に分ける。これでは両者にと
って「妥協」となってしまう。建前の下に隠されている本音・欲求
を探ることにより問題を解決していく方法が「協調的交渉術」であ
る。
 また、実際に両者が同一のもの(中身)を欲しがっている場合も
多い。しかし、このような場合でも、妹が欲しがる理由は「オレン
ジが欲しい」のではなく、「姉が欲しがっているから」で、その奥に
は「姉と対等に扱って欲しい」という欲求が潜んでいるということ
もある。ここで大切なのは、たくさんある欲求の中から、一番重要
な欲求を見極めることである。このように対立点(オレンジが欲しい)
からそれぞれの最優先の欲求のレベルに焦点を当て問題解決を探る
ことを「問題の見直し」という。このようにしてそれぞれの欲求を
すべて並べ、その中から最優先の欲求を一つずつ選び出し、それら
を満足させるためのアイデア、即ち「代替案」を探す。協調的交渉
術では、これらの代替案の中でお互いに合意できるものを探すとい
う手順を踏む。

8.交渉の基本的枠組みを学ぼう
 協調的交渉術の基本的枠組みを学ぶために、具体的なケーススタ
ディに即して前述の5つの要素を分析した。この分析は、会場全体
から意見を出しつつ進められた。
1)ケース1:隣人の騒音に悩む住人
 最初に行なったのは、マンションの隣に住む失業中の佐藤さんの
カラオケの騒音に、ハードな仕事をこなす田中さんは安眠妨害され
困っているというケーススタディである。
 まず「対立点」は、田中さんは「カラオケをやめてほしい」、佐藤
さんは「カラオケをやりたい」である。その対立点の理由となる「本
音・欲求」は、田中さんについては「眠りたい」、「ルールを守って
ほしい」、「リラックスして疲れをとりたい」、「仕事でミスをしたく
ない」、佐藤さんについては「気を紛らわせたい」、「歌がうまくなり
たい」、「仕事に就きたい」、「時間潰しをしたい」などが挙げられた。
 次に、考えられるものを全て出尽くしたこれらの本音・欲求の中
から、双方にとっての最優先のものを見極めるのが「問題の見直し」
である。ここでは、田中さんは「眠りたい」、佐藤さんは「気を紛ら
わせたい」が最優先事項であると仮定した。そしてどうすればこれ
ら2つの欲求を満たすことができるかを考える。そのための具体策
となる「代替案」について、「防音壁にする」、「時間帯を変える」、「仕
事の斡旋をする」、「趣味を紹介する」、「部屋の配置換えをする」な
ど全てを並べてみる。これらの代替案の中から双方が合意するもの
を決定するが、それをもってしても解決しない場合は、「本音・欲求」
の見極めが不十分であった可能性があるので、元に戻り欲求を探り、
再びそれを見直すという作業を繰り返し行なうことになる。

2)ケース2:子どもの結婚話に反対する親
 2つ目のケーススタディは、初婚の息子が結婚したい相手という
女性には2人の小学生の子どもがいることを知り、ショックのあま
り夜も眠れないという50代の主婦からの相談である。これについて
は、まず個人で考え、次にグループ討議を行い、各グループから案
を出し合うという形で行われた。
 まず、「対立点」については、母親は「子持ちの女性と結婚してほ
しくない」、息子が「その女性と結婚したい」となった。次いで、母
親の「本音・欲求」については、「周りから祝福される結婚をしてほ
しい」、「連れ子の面倒をみたくない」、「世間体が悪い」、「老後の面
倒をみてほしい」、「苦労するのが可哀相」、「トラブルは避けたい」、
「息子をコントロールしたい(イメージどおりにしたい)」、また息
子の「本音・欲求」については、「好きな人と結婚したい」、「自分で
決めたい」、「自分のことを認めてほしい」、「親と相手が仲良くなっ
てほしい」など、各グループから様々なものが出された。
 これらの本音・欲求の中から「問題の見直し」として、母親にと
っては「息子をコントロールしたい」、息子にとっては「好きな人と
結婚したい」がそれぞれの一番重要な欲求とした。この最優先する
欲求を解決するための策として、「母親に紹介する」、「母親の理想に
合った女性のような演技をする」などの代替案が挙げられた。
 また、妨害案については、母親の立場からは「手切れ金を渡す」、
「相手を説得する」、「見合いさせる」、「相手の素性を暴く」、息子の
立場からは「無視する」、「かけおちする」、「子どもをつくる」、「味
方をつける」など多様な意見が出された。
 このように論理的に状況を分析することは手間のかかる作業であ
るが、日頃ぼんやりとしている自分の本音と相手の本音が明らかに
なり、協調的に交渉を進め解決に向かうためのツールとしては十分
に使えそうである。

 ここで、参加者から「たくさんある欲求の中から最も重要なもの
に対する一つの最適解があるというよりも、欲求自体が階層構造に
なっていて、それぞれの欲求に対してその階層ごとに解は幾つもあ
るのではないか?」という質問が投げかけられた。これに対し、野
沢氏は「問題の見直しを行なった上で代替案を出し、それでも解決
できない場合には、更にもっと深い本音・欲求を探ることが必要と
なる。実際にはなかなか本音・欲求が出てこないことも多く、その
場合にはカウンセラーや調停者がその部分を引き出すことになる。」
と解説した。

9.問題解決へのステップ
協調的交渉術では、「満たされない欲求を探るためには、あくまで
情報収集に徹するしかない」と野沢氏は言う。相手の「攻撃」に対
し、ひたすら「情報収集」し続け、またタイミングよく「情報伝達」
を行なうことによって、相手は次第に「攻撃」を緩め、最終的には
「情報伝達」、つまり本音や欲求を伝えるようになる。そこに至るま
での長さは、問題の難易度によると言われている。
また、協調的交渉術では、相手の欲求だけでなく、自分の欲求も
見極めることが大切である。アメリカなどでは、幼少期から様々な
場面で子どもに選択させる育児方法を採っており、常に「自分は何
が欲しいか」を考える癖がついているが、日本では子どもに選ばせ
ることなく親が与えてしまうので自分の欲求を知る訓練がなされて
いない、と野沢氏は指摘する。

10.模擬交渉「放置自転車は誰の責任?」
 交渉を協調的に行なうために必要なのは、交渉前に「交渉の計画
を立てること」、交渉中に「交渉の場の雰囲気づくりをすること」、「自
分と相手の建前と本音を見極めること」、「問題の見直しをすること」、
「代替案に沿って合意を導くこと」である。

 駅前の放置自転車対策に頭を痛めているM市に、放置自転車によ
り店頭を占拠され売り上げの落ち込みが深刻化している地元駅前商
店街が話を持ちかけ、市役所と住民の対話集会が開催されるという
設定で、その際の話し合いの場面についての模擬交渉が行なわれた。
 まずグループ内で住民側3名、市役所・商店街側3名を決定した。
その後、住民側と市役所・商店街側の二手に分かれて、グループ作
戦会議を行なった。そして、各グループに戻りそれぞれの役に扮し
模擬交渉が行なわれ、その会話はテープに録音される。
 録音された会話をワンセンテンスごとに区切りって聞き直し、各
人の発言内容が5つの交渉方法のどれに該当するかをコミュニケー
ション分析シート(縦に5つの交渉方法「情報伝達」「情報収集」「歩
みより」「攻撃」「先送り」、横に各人の名前を示した表)にチェック
していく。この表によって、各人がどのような交渉をしたかが分か
る。
次に3分単位で区切って再度会話を聞き直し、交渉力振り返りシ
ートを使って、交渉力チェックを行なう。これは、縦に「挨拶」、「建
前と本音の見極め」、「問題の見直し」、「問題解決と合意」に関する
詳細な項目が並び、それぞれの項目に住民側と市役所・商店街側の
欄が、また横には3分ごとの時間軸が設けられている。入れられた
チェックが右下方に向かう直線に近い形をとれば、問題解決に向か
ってスムーズに話し合いが進行していることになる。この表を用い
ることにより、時間の経過と話し合いの流れが一目瞭然となる。

 あるグループのコミュニケーション分析シートでは、市役所・商
店街側の3名からは情報収集に該当する発言は多いが情報伝達は少
なく、住民側の3名からは情報伝達は多いが情報収集は少ないとい
う結果が浮き彫りとなった。これについて参加者は、実際の現場で
も陥り易い状況ではないかという気づきがあった。また、そのグル
ープの交渉力振り返りシートからは、交渉内容が「建前と本音の見
極め」と「問題の見直し」の間を行き来しているうちに時間が経過
してしまい、「問題解決と合意」にまで辿り着けてない様が如実に表
れた。

 ロールプレイを用いて交渉を実体験し、更にその発言内容等を振
り返って細かく分析することにより、それぞれの立場によってある
交渉スタイルに偏ってしまう傾向にあることを再認識するとともに、
相手の建前と本音・欲求を見極めること、またそれに基づいて問題
を見直し更には問題解決へと導くことの難しさを参加者は実践的に
学ぶことができた。

●参考図書について
野沢氏より、以下の図書が紹介されました。
・「協調的交渉術のすすめ」:エレン・レイダー、スーザン・W・
コールマン著、野沢聡子監修・訳(1999年、アルク)
・「紛争解決の心理学」:モートン・ドイッチ著、杉田千鶴子訳
(1995年、ミネルヴァ書房)
・「紛争解決のモードとは何か」:名嘉憲夫著(2002年、世界思想
社)
・「ハーバード流交渉術」:ロジャー・フィシャー、ウイリアム・
ユリー、ブルース・パットン共著、金山宣夫、浅井和子訳(1998
年、TBSブリタニカ)
・「紛争管理論」:レビン著、小林久子訳・編(2003年、日本加除
出版株式会社)

〔文責:土木技術者のための合意形成技術の教育方法に
関する研究会 開催支援事業担当:野田昭子/石川雄章〕


《主催者所見》 徳島大学 山中英生

■ 野沢先生からは、コロンビア大学の交渉学の理論にもとづく、
1日の基礎演習を実施いただいた。利害に着目する。相手の利害を
理解するための試みや、そのための問いかけや対話の基本姿勢とい
った点は納得することが多く、幅広い人々の共感をえるものと感じ
た。
■ 中でも、自転車放置問題での市民と行政の話し合いという演習
は、土木技術者にとって大変興味深いものであった。特に、話し合
いの過程をテープで聞き返しながら、「挨拶」、「建前と本音の見極め」、
「問題の見直し」、「問題解決と合意」といった内容で再評価すると
いう自らの話し方を見直す演習は、話し合いの進め方の基本を学ぶ
ものとして、大変重要なしかけと感じた。
■ 今回は協調的な交渉学の、対話的場面での交渉に焦点を当てた
演習であったので、紛争や競合の生じる社会的な合意形成において、
その社会的なプロセスとの関係については、私自身はかならずしも
明確につながらなかった。
■ しかし、それは初歩コースという性格上しかたないことであろ
う。このコースのあとにステップ2,3の講習が用意されていると
のことで、感情への対応や調停スキルといった内容へ発展すると紹
介されていた。この講習を開催する機会についても検討していきた
いと考えている。


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★彡 事務局 Voice ☆彡
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皆さま、あけましておめでとうございます。

昨年中は、ファシリテーターの役割を考えるトークセッションや、
合意形成技術者の育成などのトレーニングコースを開催し、新しい
PI-Forum会員やスタッフの方々が活動に参加して下さるようになり
ました。また、PI-Forum会員を対象とした非公開セッション等も開
催され、現場が直面している問題やその解決策等も議論されました。
PIポータルサイト(http://pi.pi-forum.org/)は、まだバグなど
があり、なかなか本格稼動していないところもありますので、今後
の課題としたいと思います。

これらの活動を通じ、PI-Forumが掲げる"3つのPI"、すなわち
「Public Involvement」(: 行政が政策決定過程に市民の参画を進
める)「Partnership Incubation」(: パートナーシップを育む環
境をつくる)、「Public Initiative」(: 市民一人ひとりが積極
的に発議・提案していく)を促進する活動の必要性をひしひしと感
じております。

本年は、まずは足元であるPI-Forumの事業に、また組織運営の仕組
みに、多様な分野でご活躍のPI-Forumの会員、現場で問題を抱えて
いらっしゃる方々、メルマガ購読者の皆様のPI-Forumへの期待を、
反映していけたらと考えています。

本年もPI-Forumをよろしくお願いいたします。
                (PI-Forum事務局 水谷香織)

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