□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ -社会の合意形成を支援する- NPO法人 『PI−Forum』 メールマガジン 第30号 (2005/8/16) ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ PI-Forumメルマガ会員の皆様へ こんにちは、PI-Forumの水谷です。 残暑きびしき折から、皆様いかがお過ごしでしょうか。 先月末に開催いたしました異分野交流ワークショップ第1回「パブ リック・インボブルメントとCSRの共創〜ステークホルダー・リ レーションのあり方から〜」には、久しぶりのワークショップ開催 にも関わらず約30名の方にご参加いただきました。 講師の金田氏((株)大和証券グループ本社CSR室次長)には、ス テークホルダー論を中心としたCSRの基礎知識をご教授いただき ました。パブリック・インボルブメントとの共通点って、意外と多 いのですね。個人的には、抵抗感を全く感じないゆったりとしたト ーンの、しかし無駄のないスマートな解説や深いコメントにただた だ感動をしていました。 *第2回ワークショップは9月28日(水)夜@都内を予定。 また、今年度事業の中間総括のシンポジウム型イベントを、 11月7〜8日(月〜火)都内での実施を予定しています。 本メールマガジンでは、PI-Forum新理事長の城山より就任の挨拶を させていただきます。また、大変遅くなってしまいましたが、昨年 度のイベント報告、海外理事通信、書籍の紹介などを掲載いたしま す。ホームページにアクセスできる環境でご覧いただけましたら幸 いです。 なお、私水谷は副理事長に就任いたしました。微力ではございます が、城山理事長のサポートと中部地域での活動に努めて参りますの で、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆目次☆★ [あいさつ] ●理事長就任挨拶 ●今年度の活動方針 [お知らせ] ●PI-Forum誌について [イベント情報 その1(報告)] ●PI-Forum イベント報告(参加学生レポートから) 「合意形成トレーニング体験コース見本市」午後の部 [イベント情報 その2(報告)] ●技術交流会・市民参加の運営技術 〜経験とその評価〜 [海外理事通信] ●「米国ケープ・コッド沖の洋上風力発電事業計画に関する 公共紛争」松浦 正浩 [書籍・論文の紹介] ●書籍(抜粋)のご紹介 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●理事長就任挨拶 城山英明(PI−Forum理事長、東京大学法学部助教授) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ PI−Forum創設以来の理事長の石川氏の本務の異動に伴う職 務との兼ね合いから、理事会の互選により、7月4日付けで理事長に 就任することとなりました。また、副理事長には水谷氏が就任しま した。PI−Forumは、2002年に、3つのPI、すなわち、 パブリック・インボルブメント(様々な市民やステークホルダーと の関係構築)、パブリック・イニシアチブ(市民による提案・発議)、 パートナーシップ・インキュベーション(関係者の関係構築支援) を推進するフォーラムとして設立されました。今後も、これまでの 試行錯誤の活動を基礎として、PIに関心を持つ人々に幅広いプラ ットフォームを提供するとともに、情報共有のためのコンテンツの 地道な整備、社会の様々な分野に根を持つ会員からなる分担型組織 の人的担い手、財源の持続的確保を行っていくことが課題となりま す。様々な形で御利用いただくとともに、様々な形でのご協力をお 願い申し上げます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●今年度の活動方針 城山英明(PI−Forum理事長、東京大学法学部助教授) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今年度は、これまでのPI−Forumの活動を基礎として、以下 のような方針で活動を行っていく予定です。第1に、PI−For umの比較優位である多分野性をより広げていきます。例えば、企 業においても、CSR(企業の社会的責任)の実践の中でも様々な ステークホルダーとの関係構築が求められており、そのような考え とPIとは通じるものがあります。第2に、コンテンツの地道な整 備を進めていきます。ハードな手段による情報の共有ももちろん重 要ですが、それ以上に情報共有の基礎的素材自体を作っていくこと も大切です。これまでも、PIの基本的理念や指針の整理を試みて きましたが、今後はPIの基本手法や進行・推進の考え方について 整理しようと考えています。第3に、現場との距離の再検討を行いま す。これまでは、直接的な現場支援はフォーラムとしての仕事では なく、会員等が個人としてあるいは業務として行うべきものとして きました。しかし、一定の現場経験なくして現実感をもてないとい った面や、新たな実験的手法についてはより実践に関わってもいい のではないかという議論もありえますので、その点に関する議論を 深めていきたいと思います。第4に、現場にもかかわる様々な分野 の会員からなる分担型組織であるPI−Forumの人的担い手、 財源をどのように持続的に確保していくのかという運営体制の整備 を模索します。一見「中立」に見える研究者の利用、プロジェクト の「遺産」による運用は過渡期の選択であり、今後はより持続可能 な体制の構築を目指す必要があるのではないかと思います。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●[お知らせ]PI-Forum誌について ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ PI-Forumでは、公共政策、公共事業、まちづくりなどの分野におけ る社会的合意形成に関する研究、事例を実務家と研究者が幅広く情 報共有することを目的に、年2回、PI-Forum誌を発行しています。 編集委員は、わが国の合意形成研究およびその実践で活躍している PI-Forum内外の若手研究者5名が担当します。 第1号(2005年1月発行)「合意形成研究の多様性」、 第2号(2005年8月発行)「合意形成の手法と技術」は、 下記のURLからご覧になれます。 http://www.pi-forum.org/act/journal/journal.html ★コンサルタント、出版社のみなさま、PI-Forum誌に広告を出して みませんか? 学識経験者や行政機関の方々には印刷物を無償配布 しており、高い広告効果が期待できます。 詳しくは、mmatsuura@pi-forum.orgまでお問い合わせください。 (担当:松浦正浩) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ PI-Forum イベント報告 その1 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 前前号に引き続きまして、昨年11月末のイベントの実施に当た った学生会員および会員以外の学生ボランティアの方々に、報告を 書いていただきました。 イベントに関与した学生という立場ならではの視点からのレポー トとしてご紹介をさせていただきます。ぜひ御一読ください。 ●「合意形成トレーニング体験コース見本市」午後の部 ◆実施概要 □日時 : 2004年11月30日(火) 14時〜17時 □場所 : フィオーレ東京 地下1F □プログラム: ・浅海 義治 氏(世田谷まちづくりセンター副所長) 「まちづくりワークショップ」 ・田村 次朗 氏(慶應義塾大学法学部教授・弁護士) 隅田 浩司 氏(東京大学先端科学技術研究センター交流研究員) 「効果的な合意形成を生み出す交渉の戦略」 ・矢嶋 宏光 氏((財)計量計画研究所 都市政策室長/ PI-Forum理事) 「パブリック・インボルブメント」 ◆報告:・浅海 義治 氏
このセッションでは、浅海先生が実際に関わっておられる「世田 谷区都市整備公社まちづくりセンター」の活動内容の一端を理解す るとともに、実際に行われたケースをもとにして参加者自らがワー クショップに参加し、その進め方、参加者同士の関わり方などを体 感していくことを中心に行われました。 「まちづくりセンター」は、地域内のまちづくり、あるいは公共 施設の建設、小学校改築などにあたって、住民の意見を取り入れ、 市民参加型の総合的な都市づくりを実現するために設立されたもの です。 このワークショップでは、「まちづくりセンター」の活動のうち、 自由が丘駅の近くに実際に建設された高齢者在宅サービスセンター の事例を取り上げて、サービスセンターのフロア設計を進め、1つ の案を提示するということを目標に進められました。 まず、参加者は3グループに分けられ、自己紹介と参加者同士の 融和を兼ねたアイスブレーキング活動(初対面の参加者間の緊張を ほぐし、発言しやすくするためのメソッド)を行いました。その後、 1グループ6人が2〜3人ずつに分かれ、どのようなフロア配置が 望ましいのか、2〜3人での意見交換および一致した見解の集積が 行われ、一覧表としてグループ内に提示されました。ここで、班内 での統一見解を示すための方法として投票が用いられ、特に支持の 多かった案がその班のアイデアとして採用され、その後のグループ 活動に引き継がれました。グループ活動では、実際に100分の1 のマップの中に、どのように建物を建てるのか、その中のどこにど の部屋を配置するのか、互いの距離や位置関係は望ましいかを検討 しながら、グループ内で意見がまとまっていきました。最終的には グループごとに1つの最終案が示され、これが3つ提示されてグル ープ活動が終了となりました。 個人の意見から2〜3人の意見へ、そしてグループごとの意見へ、 そしてさらにセッション全体の意見へと、3段階の意見集約のステ ップを通じて、ワークショップにおける意見表明やその集約、代表 意見の抽出などの実際を学んでいきました。大切なことは、参加者 それぞれ(実際には、たとえば高齢者、スタッフ、ボランティア、 家族、など)から示された良い点、悪い点を集積し、参加した全員 が納得できる結論を導くことが重要であるということでセッション が締められました。 (文責:鈴木 崇正;非会員 =東京工業大学大学院 総合理工学研究科 修士一年)・田村 次朗 氏、隅田 浩司 氏
交渉学見本市は、隅田先生から「交渉学についての講義」、「二 者間模擬交渉のロールプレイ演習」、「ロールプレイのフィードバ ック」が行なわれ、そして田村先生から「総括・質疑応答」が行な われました。以上、交渉学見本市は4部構成になっていました。 「交渉学についての講義」では、先ず交渉に関する4つの誤解を 通じて、交渉学的問題解決アプローチが紹介されました。例えば、 「交渉はその場の対応力である」という誤解に対して、交渉学によ るアプローチである「入念な目標設定」についての解説と有効性が 説明されました。 「二者間模擬交渉のロールプレイ演習」では、参加者は二名毎の グループに分かれ、博物館と大学の代表者による交渉を実際に体験 しました。参加者には、演じる役割についての立場や利害が記され た秘密情報が手渡され、講義での学習内容を活かすために約15分 間の戦略立案時間がとられました。その後、約30分程度にわたっ て二者間交渉演習がおこなわれました。 「フィードバック」では、あるグループの交渉内容が取り上げら れ、そこで実際に話し合われたプロセスをもとに、講義内容の振り 返りがおこなわれました。さらに、交渉におけるオブザーバーの役 割について解説がおこなわれました。 「総括・質疑応答」では田村先生から、交渉学における注目すべ きポイントについて整理され、さらに、交渉学を学ぶための方法論 についての紹介がありました。その後、参加者から質疑応答の時間 がさかれました。 質疑応答では参加者から、交渉初期の段階からどうしても論点が かみ合わずに対立してしまうことについてとの質問があがり、田村 先生から、その場合はアジェンダについて話し合うことに状況を解 決する糸口があると解説されました。また、どのような困難な交渉 でも、両者関係者の間に「対話」が継続する関係性の維持こそ、何 よりも大切だという考え方が示されました。 (文責:本田 和愛;非会員 =早稲田大学 理工学部 四年)・矢嶋 宏光 氏
セッションは、PI(パブリック・インボルブメント)の理念とコ ミュニケーションの基礎理論についての講義から始まりました。 PIの本質はプロセスにあり、合意形成という目的にはない。従来 のように決定した後に住民に説明するのではなく、参加型でニーズ の把握や解決策の模索をしながら政策立案し、その上で決定すると いうプロセスをとり、究極的にはWin-Winの解の創造を目指すもので ある。PIの理念について、このように解説されました。 コミュニケーションの基礎として、「表明された意見とその背景 にある利害とを分けること」、「相手の信頼を得るためには、プロ セスが約束されていることが大切」、「PIを行う際の態度は、 ”Go, Listen!”である(関心・懸念・利害を持つ人を探し、話を聞 きだすこと)」といった指摘されました。 コミュニケーションをとる際には「聴く」こと、つまり話し手の 話題の背後にある感情や意味の把握に努めることが大切であると指 摘され、相手の話を理解していることを伝えるために、要約するこ とや相槌がテクニックとして大切と言われました。 続いて、行政側の主催の会場参加型のファシリテーションを仮定 して、会場参加型でファシリテーターの応答の仕方について体験し ました。住民説明会でファシリテーターになったつもりで、住民か らの質問に答える練習です。ポイントは感情的な意見などを、論理 的な質問による対話に再構築することでした。 たとえば、「工事はどうなるのでしょうか?」と質問されたとき に「今後のスケジュールについてのご質問でしょうか、それとも環 境などへの影響についてご懸念されているのでしょうか?」という 答え方がありました。「○○には反対だ」と言われたときに、「ご 懸念はもっともだと思います。計画に反映したいので、よろしけれ ば問題点を具体的に教えていただけないでしょうか?」という応答 の仕方もありました。住民役の方から、「反対」と結論から言われ てしまった場合に、建設的な意見を聞き出していけるような応答を するのは難しいと感じました。 最後に、オープンハウス、パブリック・ミーティングなど、実際 に用いられている手法が紹介されて3時間のプログラムが終了しまし た。 (文責:飯島 裕希;学生会員 =東京大学大学院 法学政治学研究科 修士一年)
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■ PI-Forum イベント報告 その2
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社団法人土木学会四国支部主催、特定非営利活動法人コモンズと 特定非営利活動法人 PI-Forumが共済のイベンと「技術交流会・市民 参加の運営技術 〜経験とその評価〜」が、平成17年1月8日に徳島 大学工業会館にて開催されました。 プログラム、イベント概要、主催者コメント、当日の発表資料など をホームページにて公開しておりますので、ぜひご覧ください。 http://www.pi-forum.org/act/shikoku-exchange/index.html ●イベント概要: 公共事業やまちづくりにおいて、市民参画をもとに計画や実施を 進める動きが多くなっており、市民参画の場作りや運営には、会議 技術・合意形成支援技術など、多様な経験とスキルが必要となって きています。 そのような状況の中、土木学会四国支部では、建築・土木分野の 技術者が関与した市民参画型の事業や計画づくりでの経験を紹介し、 社会技術としての評価を相互に話し合い、社会で重要な役割を果た す技術者としての倫理やスキル、技能について共有する機会を持つ ことを目的とし、四国4県の事例について発表する場を設けること としました。 開催にあたっては共催団体である(特)PI-Forum、(特)コモン ズの協力のもと、四国4県各2事例ずつ(計8事例)の市民参加の 運営に直接関わった技術者が発表することとなりました。各30分 の事例発表では、それぞれの技術者が市民参加の会議や合意形成に 至る背景及び準備・実施・結果までの現場の苦労話しや市民参加の 運営に関する問題点・課題を発表し、お互いの事例の「良い点」や 「今後の課題」を共有することができたほか、当日会場に集まった 約70名の参加者からは市民参加の運営方法や合意に至った経緯な どについて活発な質問が交わされました。 また、当日は「参画運営技術の評価を考える」と題したワークシ ョップを開催し、発表の8事例について「良かった点」を参加者 (約70名)で班毎に分かれて話し合う取り組みも試みました。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■[海外理事通信]
「米国ケープ・コッド沖の洋上風力発電事業計画に関する公共紛争
:先進的社会資本の整備に関する合意形成の苦悩」
松浦正浩(PI-Forum理事、マサチューセッツ工科大学)
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筆者の住む米国マサチューセッツ州にあるケープ・コッド(コッ ド岬)の沖合で、大規模な洋上風力発電事業を行なう計画がケープ・ ウインド・アソシエーツ社により推進されている。計画によれば、 2006年までに130台の風車を設置し、年間平均170MWの 「環境にやさしいクリーンな」電力の供給が予定されている。 しかし、2001年の計画発表後、地元から大きな反対運動が起 きた。ケープ・コッドといえば、かのJ.F.ケネディの私邸もあ る比較的高級な避暑地である。しかも、事業予定地はマーサズ・ビ ニャード島、ナンタケット島というこれまた超高級避暑地にも近い (元大統領ビル・クリントンや元大統領候補ジョン・ケリーがバカ ンスを過ごすことでも知られる島々である)。これら地域の一部住 民、事業者から、陸上からみた景観への悪影響、風車の羽根の回転 により野鳥が殺される問題、ヨットが衝突するリスク、変電所の火 災のリスクなどを理由に、「ナンタケット瀬保全連合会」を軸とし た大規模な反対運動が活発化した。また、既存の火力発電所周辺住 民、環境保護団体などを中心にさまざまな賛成派推進団体も発足し た。 一見、社会資本整備に関してよく見られる紛争、またいわゆるNI MBYシンドローム*の一例だと片付けられる案件のようにも見えるが、 よく考えてみると、実は複雑な問題を抱えた案件なのである。まず 第一に、洋上風力発電事業を見越した法制度がそもそも存在しない 点が挙げられる。この事業について、どの行政機関が管轄権を持っ ているのか、どのような規制が適用されるのか、誰の許可が必要と されるのかといった点について、先行事例がないため統一解釈が できていない。さらに州政府が新たな規制を独自に設けようという 動きもあり、混乱に拍車をかけている。現在の法制度では陸上から 4.8km以内の海面についてのみ州政府に管轄権があると定められて いるため、風車が設置される予定地域はこのエリア外になるが、州 政府や関係機関は政治的な意味からもこの事業に何らかの影響力を 獲得しようと動いている。 第二に、技術的問題の複雑さが挙げられる。洋上風力発電が自然 環境にもたらす環境影響や故障のリスクについて、どの要素につい て、どのように将来予測を行い、どのように評価するかといった点 について意見が大きく分かれている。また、社会経済的影響につい ても同様に、評価の方法が対立要因の一つとなっている。実際、事 業主体と反対派、それぞれが費用便益分析を行なっており、前者は 大きなプラスの経済効果、後者は負の経済効果を示している(後者 は景観悪化による観光収入の減少を特に強調している)。 最後に、政治的問題の複雑性もある。政治家にとってもイメージ 戦略上賛成するメリットがありそうな案件のようにも見えるが、実 際は、比較的裕福なケープ・コッド周辺住民から寄せられる政治資 金への懸念、既存の電力・エネルギー業界に与える影響への懸念な ど、諸々の理由から反対の姿勢、もしくは日和見の姿勢を示してい る政治家が多い。実際、マサチューセッツ州知事のミット・ロムニ ー(共和党)は、地元説明会の場で反対演説を行なったり、洋上風 力発電を禁止する権限を州政府に与える沿岸管理法の早期成立をブ ッシュ大統領側近にはたらきかけたりなどと、明らかに反対の姿勢 を見せている。 マサチューセッツ工科大学では米国地質調査所と協力し、この問 題を題材としたセミナー「科学性の高い政策課題への共同事実確認 (joint fact-finding)の適用」を2003年秋から実施し、合意形成の 方法論を提示してきた。共同事実確認は、第三者機関(メディエー ター)が中心となり、利害関係者を特定して会合に招き、さらに科 学者、技術者を参画させた形で事実認識のすりあわせを行なった上 で、利害関係者の合意に基づく影響評価の結果を提示しようとする 取組みである。この取組みが本格的に実現されれば、賛成派、反対 派がそれぞれ主張している「正しい科学的情報」についての混乱が 少しは収まると思われるが、残念ながらいまのところ実現に至って いない。 さる11月、許認可権限を有する連邦陸軍工兵隊が国家環境保護法 (NEPA)に基づく環境アセスメント準備書を公表した。準備書は、 この事業を実現してもほとんど悪影響はないとしている。また、十 分な「パブリック・インボルブメント」を行なったとも主張してい る。しかし、賛成派と反対派の対立は絶えることなく、地元報道に よれば感情の溝は隔たるばかりとのことである。また、州知事の動 きにも見られるように、訴訟や法改正などあらゆる手段でこの事業 を中止させようとする動きが起きている。 この事業を見ると、大規模社会資本に関する合意形成には、法制 度の側面、技術的側面(影響評価、政策分析)、政治の側面という 3つの側面が影響を与えていることがよくわかる。これら全ての側 面について統合的に対応しない限り、合意形成は難しい。また、洋 上風力発電のように、事業内容や技術に関する経験が過去に乏しい 場合、不確実性や制度の隙間(institutional void)が原因となり、 これら3つの側面における言説(discourse)の形成が活発化し、 さらに合意形成を困難なものとするのだろう。 * NIMBY「Not-In-My-Backyardの略語で、自分にとっては迷惑な公 共施設を自宅のそばに建設しないでほしいということ。NIMBYシ ンドロームで、(立地選定の段階で)周辺住民が反対運動を始 めるという現象を意味する。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■[書籍のご紹介]
「反合意的主体としての都市」堀田昌英
(竹内佐和子編『日本の産業システム8 都市デザイン』
NTT出版、第7章)
(文責:寸田 英利、飯島 裕希)
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【概要】 本書は、20世紀には考慮されていなかった環境やヒューマン等と いったインターフェイスを組み込んだ、都市空間のデザインをコン セプトとした8本の論文を集めたものである。そのうちの第7章を紹 介する。 第7章では、都市デザインにとって合意という概念がもつ意味を 論じている。 まず、社会における合意について対照的な立場を表明するものの 例として、コミュニケーション的合意主義と多元主義という思想を 提示している。前者のスタンスは、「不一致をなくすために必要な 方策を講じ、常にいかなる時も合意に向けて努力すること」である のに対し、後者は、「複雑で不完全な社会において不一致が不可避 であることを受容し、不一致があっても致命的な問題が生じないよ うにすること」であるとしている。 そして、政策決定における合意形成については、下記に示す三つ の考え方があるとしている。 @.温情主義的合意形成観 対話を通して、専門家が考える最適な社会的解を、市民に納得さ せるためのプロセス A.コミュニケーション的合意形成観(安定した合意) 対話を通して各々が自分の最もよく知る事柄について社会がどう あるべきかを熟考し、他を納得させ、それらを組み合わせて社会 的に最も合理的な解を算出する B.多元主義的合意形成観(葛藤や対立) 対立する価値や事実認識を越えて社会が何らかの結論に辿り着い たとき、この差異に我々がどれだけ気づいていたか、合意に表れ ないさまざまな排除された意思を認識するに至ったか否かを決定 の正当性の規準と考える 従来の都市デザインの意思決定プロセスでは、行政が温情主義的合 意形成観に近い態度をとってきた。しかし、行政には国民に代わっ て社会的選択を行う権限は与えられていないと指摘し、多元主義的 合意形成観から行政の役割を再考している。本章では、川辺川ダム の建設をめぐる議論を構造化・分類するという手法により、住民と の討論会が技術的な議論に終始し、価値をめぐる論争が欠けていた と指摘する。そして、価値をめぐる論争こそが都市デザインに新た な付加価値を創造するために重要ではないかと主張している。 【コメント】 筆者は、都市とは、多様な都市の構成主体が未だ合意されていな い事項を抱えつつ社会生活を営んでいる、恒常的に合意形成プロセ スを必要とする動態的(暫定的な)ものとして捉えています。この 視点から都市デザインにおける多元主義の重要性を論じているとこ ろが画期的な試みであると感じました。 都市デザインは、従来の都市基盤整備と異なるアプローチが必要 であることから、環境、保全、景観、文化、地域ネットワーク等の 多様な価値を含むべきであり、事実認識だけでなく、価値規範に関 する議論の必要性を、事例分析を通して筆者は指摘しています。し かし、そのプロセスにおける行政の役割は、多様な価値観(多様性 )が発現した場合に集合的価値規範を提案して選択肢を決定するこ とは許されず、互いに対立しつつも一貫性を保っている複数の言説 という形で提示することが重要と指摘するにとどめています。 私たちは、筆者の主張にはさらに検討すべき点が残されていると 考えます。対立や差異が解消された論理を覆い隠さずに提示するこ とは困難であるとしていますが、覆い隠さずに社会に提示した場合 どんな結果となるのか。また、排除された意思を認識した上で、当 該利害関係者に対してどうフォローしたのか(そのフォローに合意 したのか)、検証していくことです。そして、価値観が多く発現し た場合、差異として受容すべき「多様性」と排除すべき「バラバラ 」の判断がしにくくなると考えられますが、両者の境界線をどう扱 うのか。 これらの分析を行うことにより、筆者が示唆した都市デザインの 実践的指針は一層深化すると考えます。 (文責:寸田 英利、飯島 裕希) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆会員募集☆★ PI-Forumでは、市民団体、大学、行政、民間企業等、様々な分野 ・立場の方々のプラットフォームを形成するため、幅広く会員を 募集しております。 是非、入会をご検討下さい。 http://www.pi-forum.org/appli.html 〜PI-Forumの目指すもの〜 我々は、行政が政策決定過程に市民の参加を促すとともに市民一 人ひとりが積極的に発議するための新しい合意形成の仕組みを提 案し、提供することにより、市民が主体的に合意形成の取り組み に参画する社会を実現するとともに公共サービスの満足度を高め ることを目指しています。 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ PI 3つの定義 1.Public Involvement:行政が政策決定過程に市民の参画を 進める 2.Partnership Incubation:パートナーシップを育む環境を つくる 3.Public Initiative:市民一人ひとりが積極的に発議・提案 していく ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆PI-Forumメールマガジンは、PI-Forumや合意形成に関す る最新情報をお届けする無料のメール配信サービスです。 ☆ご意見、ご感想をぜひお寄せ下さい。 info@pi-forum.org ☆配信及び配信停止をご希望の方、メールアドレス変更をご希望の 方は、info@pi-forum.org までご連絡ください。 発行・編集・配信:水谷 香織(副理事長) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ 特定非営利活動法人PI−Forum(ピーアイ・フォーラム) URL http://www.pi-forum.org/ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛