第1回デモクラシー・デザイン・フォーラム 開催報告

「協働・対話の最前線」

日時:2015年8月31日(月)18:30~20:00
会場:科学技術振興機構東京本部別館(K's五番町)2階A1会議室

デモクラシーデザインフォーラムの模様

 「場のデザイン」に関する情報共有と議論を促進するデモクラシー・デザイン・フォーラムの第1回として、デモクラシー・デザイン・ラボの理事等3名より、これまでの取り組みや、最新事例について話題提供を行いました。当日は約20名の実務経験者、現場担当者などにご参加いただき、活発な質疑応答が行われました。

 冒頭に、代表理事の松浦正浩が、デモクラシー・デザイン・ラボのコンセプトを紹介しました。発足の意図として、『「場づくり」を開かれたものに!』『エビデンスの交通整理!』の2つを挙げ、今後、NPO法人として提供を予定しているサービスの概要を発表しました。

 次に、八木絵香氏(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター准教授)から、これまでに関わってきた対話の事例を網羅的に紹介しました。対話には、専門家、住民、意思決定者などさまざまな人々が関わり、専門家と専門家、専門家と住民、住民と住民など、異なるパターンが見られるとともに、最近は、被害者と加害者の対話にも関わられています。原子力に関する住民間の対話では、意見の対立がなくならなくとも、お互い共通の価値観に気づいたり、日常生活で挨拶できる人間関係ができたりすることを見出されました。また、政策決定につながる対話として、WWViewsやエネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査に関られた経験から、政策決定のために必要な情報(アジェンダ)と、参加者自身が話したいことが一致しないという問題を指摘されました。また最新の事例として、震災がれきの受け入れに関する対話、鉄道事故現場の保存に関する対話について紹介されました。

 松浦正浩代表理事(東京大学公共政策大学院特任准教授)は、共同事実確認の必要性とプロセスについて簡単に紹介した後、ステークホルダー対話による合意形成の限界を指摘しました。具体的には、日本国内のある地域における気候変動対策についてステークホルダー対話による検討を試みた際、地域内で資源が循環する持続可能な社会経済システムへの変革を意図していたにもかかわらず、ステークホルダー間の利害調整を期待する場を設けてしまったため、意図と反して、現状の社会経済システムを追認、強化するような議論に陥ってしまったという事例を示しました。また、この反省を踏まえて研究を進めている、社会経済システムの変革をもたらす方法論である「トランジション・マネジメント」の概要を紹介しました。

 最後に、山中英生理事(徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部教授)が、南海トラフにおける巨大地震に対応するため、現在、徳島県東部で進められている都市計画の見直しを紹介しました。新しい都市計画では、予想される津波の高さに応じて居住や商業などの立地を適切に誘導する必要性があるものの、すでに多くの人々が居住している市街地にも影響が及ぶ可能性があるため、検討のプロセスを注意深く設計する必要があるとのことです。特に、複数の市町をまたいで都市計画区域は設定されているため、津波の影響やまちの特性が異なる複数の市町のあいだでいかに調整しながら検討を進めるか、注意を払う必要があるそうです。これまで、浸水深の予測などさまざまなデータを収集してきたものの、今後の対話や調整のなかで、これらのデータに疑いを持つ者が出てくることも予想されるため、共同事実確認方式による検討プロセスについて、そのデザインを現在検討されているそうです。

 会場との質疑応答では、原子力に関する対話における市民の感情の変化、対話の所要時間と意思決定の期限との相互調整、津波対策の検討における考慮事項の幅(たとえば海面上昇を含めるか否か)など、場のデザインにおいて重要な課題が指摘されました。

デモクラシーデザインフォーラムの模様

〔文責 松浦正浩〕

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